労働時間「増やしたい」わずか11%、理由の8割が「生活苦」 “労働規制緩和”政府検討の一方、全労連調査で浮き彫りとなった“現場の実態”

労働時間「増やしたい」わずか11%、理由の8割が「生活苦」 “労働規制緩和”政府検討の一方、全労連調査で浮き彫りとなった“現場の実態”

「月に何回か、ぼーっとする日があった方がいい」「40歳を過ぎて、週5フルタイムですら家事育児との両立がしんどい。本音は週3勤務くらいが望ましい」――。

2025年11月から12月にかけて実施した労働時間に関する緊急アンケートには、こうした“悲鳴”が数多く寄せられた。

アンケートを実施した全国労働組合総連合(全労連)などが1月14日、都内で会見。

回答した1267人のうち「現状よりも労働時間を増やしたい」と答えたのはわずか11%にとどまり、その多くが「今の収入では生活が苦しいから」と、追い詰められた末の選択だったという。

政府は「働き方改革」の見直し検討

発端は、政府・自民党が掲げる「働きたい改革」だ。政権発足直後の2025年10月、高市早苗首相は厚生労働大臣に対し、労働時間規制の緩和を検討するよう指示。

自民党は参院選でも「働きたい人が挑戦できる社会」を掲げ、「働き方改革」の見直しを公約に据えた。

厚生労働省の労働政策審議会でも、財界・使用者側の委員が「現行の働き方改革は、より働きたい・より稼ぎたい・成長したいという労働者のニーズを抑制している」といった発言をしている。

これを受け、政府は2025年の骨太方針に「働き方改革関連法施行後5年の総点検」を明記し、労働者や企業へのアンケートやヒアリングを開始した。労働時間を増やしたいかどうかなどのニーズを把握し、労働基準法制の見直しを検討するとされている。

ただ、政府調査の対象はモニター会社登録者や企業が選んだ従業員とされ、「本当に労働者の本音が聞けるのか」という疑問も出ていた。

こうした中、全労連は2025年11月から12月にかけて、加盟組織にメールや機関紙で周知し、ウェブフォームや紙回答でアンケート調査を実施。有効回答は1267人で、そのうち正規雇用が87%、非正規雇用が13%だった。

会見には物流業界や介護・保育現場の労働組合メンバーも参加し、「物流では長時間労働と低賃金が前提となり、過労死が後を絶たない」「介護施設では実態は夜勤なのに『宿直』扱いで手当もつかず、休みも取れない」といった現場の状況が次々と報告された。

全労連の黒澤幸一事務局長は、労働法の役割に触れながらこう述べた。

「労働法は、契約の自由を放任すれば低賃金・長時間労働が起きるからこそ存在する。本来は規制を強化してこそ、労働者の権利が実現される。それなのに『働きたい人がいるから』と最低基準を緩めようとしているのは、この原理に反する」

労働時間「増やしたい」は11%

アンケートの中核となる問いは、「労働時間を増やしたいか、減らしたいか」だ。結果は、現状より労働時間を「減らしたい」が57%、「現状のまま」が32%、「増やしたい」は11%にとどまった。

「増やしたい」と答えた人に理由を尋ねると、「今の収入では生活が苦しいから」が78%で最も多く、「自分のスキルを上げたいから」「顧客や利用者のニーズに応えたいから」といった前向きな理由は、回答者全体(1267人)に対して合計約1.5%にとどまる。

自由記載には、生活苦から長時間労働を強いられる実態を訴える声が並ぶ。

  • 「もっと働きたいと言っている人のうち、今の賃金では生活できないからという理由以外の人がどれだけいるのでしょうか。生活していけるだけの賃金をもらえていれば、今以上に働きたいという人はほとんどいないのではないか」
  • 「残業しないと給料が低いのが厳しい。残業すると家族や自分の時間がない。帰って寝るだけの日々でつらい」

「家事育児仕事の両立がしんどい。本音は…」

一方、労働時間を「減らしたい」と回答した人の自由記載欄には下記のような言葉が並んだ。

  • 「1日の労働時間は短く、休日は多い方がいい」
  • 「ワークライフバランスのためには、1日あたりの所定労働時間を短縮する必要がある」
  • 「きちんと休憩が取れるようにしてほしい。休憩がしっかりと取れないので、残業しなくても実質8時間以上働いている現状を変えたい」
  • 「8時間労働は長いので、休憩込みで7時間以内にしてほしい」
  • 「40歳すぎて体力の衰えを強く感じます。正直週5フルタイムですら、家事育児仕事の両立がしんどいです。本音は週3勤務くらいが望ましいです」
  • 「月に何回か、ぼーっとする日があった方がいいね」

所定労働時間については、「1時間減らしたい」が38%、「2時間減らしたい」が21%、「30分減らしたい」が20%となり、約6割が1〜2時間の短縮を望んでいた。休日については「週2日」が56%、「週3日」が39%で、3日以上を求める人が4割を超えた。

「規制が緩めば長時間労働を強いられる人が…」

残業の実態も深刻だ。直近3か月の平均残業時間は「1分〜5時間」が31%、「10〜30時間」が25%で、「0時間」は12%のみ。88%の労働者が何らかの形で残業をしている。

また「1か月の残業時間の許容範囲」を尋ねた項目では、過労死ラインとされる「月80時間超」を許容範囲と答えた人も約6%いた。

自由記載には、こうした危うさを自覚する記述もある。

  • 「80時間の制限があるなら、その時間内で終わる仕事量にしてほしい。家で仕事することになっている」
  • 「日本の“空気を読む”文化を考えると、規制が緩めば長時間労働を強いられる人が出てくると思う。労働時間規制緩和についてはかなり慎重になるべきだ」

「『もう十分働いている』が労働者の本音だ」

全労連は、今回の調査結果を踏まえ、2026年春闘で所定労働時間を1日7時間・週35時間に短縮すること、時間外労働の上限を月45時間・年360時間までとし、三六協定の特別条項を廃止すること、連続11時間以上の勤務間インターバルを求めることなどを掲げている。

一方で、政府は「働き方改革関連法施行後5年の総点検」を踏まえた労働時間規制のあり方について、今後、関係審議会などで議論を進めるとされている。

会見の最後、黒澤事務局長はあらためてこう強調した。

「『働きたい人が多い』という政府の前提は、この調査では裏付けられなかった。労働者の本音は、“もう十分働いている。これ以上は無理だ”というものだ。われわれは労働者の立場でしっかり規制緩和反対の立場を明確にし、規制を強化すべきだということを求めていきたい」

配信元: 弁護士JP

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