重要なのは「適切な距離感」と「頭の中の多様性」を持つこと。意見が違っても受け流し、心から信頼できる友人を数人育むことが、安心感や心の支えになる。
人間関係に上下を持ち込まず、居心地の良い関係を築く力が、ストレスのない老後を実現する鍵だと生物学者で早稲田大学名誉教授でもありフジテレビ系列の『ホンマでっか!?TV』のコメンテーターを務める池田清彦氏は説きます。
※本記事、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社刊)より一部抜粋・再構成してお届けします。

◆自分の頭の中に「多様性」を持つ
気に食わない人を避けてばかりいると、間違いなく知り合いの数は減る。無理をしてまで嫌いな人とつきあう必要はないと思うので、それはそれでもいいのだが、知り合いレベルであれば、無理に排除しなくても、喧嘩しない程度にうまいことやっていくことはできる。
ちょっとくらい意見が違っても、少しでも一致しているところがあればまあいいかと妥協して、それ以外の部分はあまりぐちぐち考えずにペンディングにしておく。
老人同士のつきあいは、それくらいの「適当さ」がちょうどいい。
そのへんの加減がうまかったのは昔の自民党である。
とりあえず最低限のところだけ意見が一致していれば、厳密なところでは意見がバラバラでもまあいいかという適当な党だからあそこまで大きくなれたのである。
新しい党ほどとにかく全員の意見を一致させようとするのだが、そのようなやり方ではかえってバラバラになりやすく、党として大きくなることはできないと思う。
「自分自身が楽しくなる」ためにも、「他人と楽しくつきあう」ためにも、自分の頭の中をいつもニュートラルにして、「多様性」を維持しておくのがいい。
それはつまり、自分の今の考えがAだからといって、反Aを拒絶するのではなく、状況に応じてそっちに切り替えられるようないい意味での「適当さ」を持つということだ。
トランプが嫌いならバイデンが好き、アメリカが嫌いなら中国が好き、などと敵と味方に分けて考える人ばかりだと、最後は戦争するしかなくなってしまう。
◆「頭の中の多様性」が人生を豊かにする秘訣
マイノリティの権利を守る「多様性」への対応は社会的なテーマになっているが、自分の頭の中にも「多様性」があれば、人生というのはうんと生きやすくなる。他人の言動が必要以上にひっかかるのは、「これだけが正しい」と思い込んでいるせいだ。つまり、自分の頭の中に「多様性」がないのである。
自分が気に食わないものをいちいち解決しなければ前に進めないとなると、人生なんてあっという間に終わってしまう。他人の言動について気になることがあったとしても、あまり深くは考えず死ぬまでペンディングにしておけばいい。
そのへんをうまくスルーしてやりすごす能力というのも、楽しい老後のためには必要だと思う。
老人にとっていちばん大事なのは、自分の今の生活を楽しむことであり、気に食わないことにいちいち目くじらを立てることではない。人づきあいは大事でも、だからといって必死になる必要などなく、片手間にやるくらいのつもりで適当にやっていればいいのである。
「これだけ」「これしか」という考え方は、実は相当にリスクが高い。前述した人間の「広食性」は、考え方にも必要なのだ。

