歌うだけで、心と体が“整い始める”理由
歌うことには、気分転換以上の働きがあることが、研究(※1)からも示されています。歌唱によって、ストレスを感じたときに分泌されるホルモン「コルチゾール」が低下し、気持ちが落ち着いたり、前向きな感覚が戻ったりすることが確認されています。
「理由ははっきりしないけれど、なんだか気分が重い」——そんなときこそ、声を出す行為そのものが、心の切り替えを助けてくれるのです。
さらに注目したいのが、歌うことが体にもたらす影響です。歌唱は呼吸を深くし、心拍数をほどよく上げるため、心臓や呼吸筋に適度な負荷がかかります。
その反応は中程度の運動と同等とされ(※2)、体を動かすのが億劫になりがちな50代にとって、無理なく続けやすい活動といえます。
激しい運動のように「がんばる」必要はなく、楽しみながら自然に呼吸が整い、体が温まり、巡りがよくなる——。
歌い終えた後に「少しスッとした」と感じられるなら、それ自体が心と体が整ったサインなのかもしれません。
人類学と予防医学が語る、歌は最古の“開運行為”?
「歌や祈り、儀式というのは、人が生きていく上で欠かせない存在なんです」。そう話すのは、人類学者の磯野真穂先生。
祝詞や仏教の読経がそうであるように、呼吸を整え、声を繰り返し出す行為は、古くから身体と切り離せない“清め”の営みとして続いてきました。
「日常(俗なる空間)から一歩離れた空間で声を出すことで、心身をリフレッシュし活力を得てきました。その点では、日常の雑事から離れ、共に歌うカラオケは現代の祭りであり、穢れを祓うことにつながる可能性があります」(磯野先生)
一方、予防医学研究者の石川善樹先生は、歌うことが心に与える変化に注目します。
「歌うと、幸福感や安心感に関わる『エンドルフィン』が分泌されやすくなります。特に、誰かと声を重ねることで一体感が生まれ、安心感や一体感を獲得する効果が期待されます」と石川先生。一人じゃない”という感覚が戻ることも、心を整える大切な要素なのでしょう。
日常の中で人が集い、歌い、踊り、心を通わせる——沖縄に根付くこうした慣習は、人と人のつながりを保つための、自然なウェルビーイングの形とも言えます。そして、カラオケもその役割を担ってきた場の一つなのかもしれません。
仕事や家事、人間関係の役割をいったん手放し、声を重ねる時間。「それは人が健やかに暮らすための根源的な行為であり、現代のウェルビーイングにおいても大きな価値がある」と石川先生は話します。
声を出すことは、がんばるためではなく、自分を整えるためのスイッチなのですね。

