◆走りながら葉っぱを収穫

ビニール袋いっぱいに葉っぱを摘んだら、「すまぬ」「ありがとう」とギシギシに声をかけ、ストップウォッチを再開。また走り出す。
大学に着いたら真っ先にハキリアリの飼育部屋に向かう。キノコ畑とハキリアリの様子を確認し、大きな問題がなければ、葉っぱを新鮮なものと交換する。アリ部屋はエアコンが完備されている。温度27℃・湿度70%程度を保つよう24時間空調にしているのだが、どうしても人工飼育の難しさがある。
自然環境下であれば、ハキリアリの巣の中は「天然の換気システム」によって最適な状態に保たれる。しかし、人工の巣の中だと空気の対流が起こらないため、カビやダニの発生を防ぐことができないのだ。
そのため、こまめに掃除をして、傷んだ葉っぱや古くなったキノコ畑、アリの死骸を集めて高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)にかけて、滅菌して捨てる。これは10 日に1回くらいでいいのだが、なかなか大変な作業だ。
ハキリアリへの朝のあいさつが終わったら、バタバタと自分の研究室へと戻り、日中は講義や実習をしたり、学生の対応をしたり、会議に出たり、「大学の先生」としての仕事をこなす。場合によってはお昼休みの前くらいにもう一回、ハキリアリの様子を見に行き、状況に合わせて、葉っぱを追加したり、つぶしたオーツ麦や昆虫ゼリーを入れたりする。大学を出る前、夜7~8時くらいにもう一度、ハキリアリに会いにいく。様子を見て、「では、さらばだ」「元気でね」と帰路につく。
以前の職場は研究室の隣にアリ部屋があったので、暇さえあれば眺めていた。とても幸せだった。が、現在は研究室とアリ部屋が少し離れているので、1日3回、ちょこちょことチェックしに行く。やや手間がかかるが、致し方ない。
そのため、来年、大学院生に僕の教員部屋を明け渡して、アリ部屋に僕の研究室を移してしまおうかと思案中である。しかし、アリ部屋は窓がなく、湿度70%というなかなかな環境だ。じめっとした中で長時間過ごすのは躊躇しちゃうなぁ。
◆すったもんだの末、ハキリアリを個人輸入
そもそもなぜ、ハキリアリが岡山理科大学理学部の動物飼育室に鎮座しているのか。ハキリアリは日本に分布するアリではない。アマゾンを中心とした南米、北米大陸にしかいない。調査、研究をするためには、飛行機に乗り25時間、長距離を移動して現地に行く必要があった。2020年4月、久しぶりに科学研究費補助金(科研費)が採択された。うれしいことはうれしいのだが、折しも、新型コロナウイルスが猛威をふるいはじめた時期。海外渡航が厳しく制限され、調査に行くことはできない。
そのうち制限は解除されるだろうとたかを括っていたのだが、2年たっても解除される気配がない。これはまずいことになった。データ解析など、国内でやることはあるのだが、実地でのアリの音の録音や、プレイバック実験が研究計画のメインだ。パナマに行けないのは厳しい。苦肉の策としてハキリアリの個人輸入を画策したのだ。
2022年3月に農林水産省に問い合わせをしてから約1年。すったもんだの末、ようやく2023年の3月、九州大学決断科学センターにハキリアリ4コロニーを迎え入れることができた。
何がそんなに大変だったのか? ハキリアリは子どもたちのアイドル昆虫だが、とくに中南米では甚大な農業被害を出す害虫だ。そのため、日本国内に入れるには、農林水産大臣の許可が必要となる。
輸入許可をもらうには、外部には絶対に逃さない飼育環境でなくてはならない。「鍵付きの二重扉の部屋での飼育」「扉にも施錠」といった設備を整え、実際に植物防疫所係員の立ち合い検査を受けて、ようやくハキリアリの飼育が認められる。

