◆さまざまな設備が整った馬運車の価格は「6000万円以上」

「特注なので1台6000万円以上します。部材費が高騰しているので、数年後には1億円近くになっていると思います」
超高額な特殊車両、載せているのは競走馬。輸送にプレッシャーはないのか。
「新馬でも重賞馬でも、お預かりした大切な馬ですので常に緊張感は持っています。かつて9頭積み仕様の頃に1度に6頭G1馬を運んだ古株社員は『あの時はさすがに震えたよ……』と言っていましたが、普段はあまり意識しないようにしています。馬は好きでも競馬に興味のないドライバーもいますし、どんな馬か気づかないで運んでいることもあります」
◆競走馬輸送は「接客業」、ドライバーに求める意外なスキル
では、競走馬を輸送する上でドライバーはどんなスキルが求められるのか。白川社長から意外な答えが返ってきた。「“人間性”です。馬は本当に繊細な生き物ですし、もちろん動物なので言葉はしゃべれない。いわば力の強い巨大な赤ちゃんのような存在です。ちょっとした仕草から何を求めているか気づき、変化に前もって対処することが必要です。接客業と同じだと思います。かゆいところに手が届く人じゃないと務まらない。それにツーマン体制なので、いい年のおっさん同士が狭い運転席に20~30時間一緒にいなきゃいけないですからね(笑)。やっぱり人柄が大事です」
驚くことに、同社のドライバー採用では運転試験は行っていないという。
「ミスマッチを防ぐために体験乗務の機会を設けていますが、運転試験はありません。高度な運転スキルを求めているのは確かですが下手にドライバー歴が長いと馬輸送には向かないクセが染み付いている方が多いので、未経験のから育てる方が良いケースもあります。急ブレーキ、急ハンドルは厳禁ですし、柔らかい運転はもちろんですが普段は大型トラックが通らないような民家の間を通り抜けなければならないことも日常的ですので、やはりその様な技術も身に着けなければなりません。
それよりも難しいのは、馬を車に載せる技術・車の中でのトラブルに対応できる技術だと思います。馬の積み降ろし、中での対応、こればかりは牧場やトレーニングセンターで馬を扱っている方達よりも我々の方が上手ですし、経験がものを言います」

