「いい介護」ってなんですか? 元自衛官の介護講師が考え続けた末に「答えが出ない」と語る理由

「いい介護」ってなんですか? 元自衛官の介護講師が考え続けた末に「答えが出ない」と語る理由

辞めることが責任ではない。事故から学んだプロ誠意

インタビュー風景2

──介護現場では、真面目に向き合う人ほど自分を追い込んでしまうこともありますよね。藤井さんはどう乗り越えてきましたか?

元自衛官というと「メンタルが強い」と思われがちですが、僕もすごく落ち込みますし、失敗を引きずるタイプですよ。

介護を始めて8年目、管理者をしていたときに大きな事故が起きてしまい、「管理者として責任を取って辞めよう」と考えました。それが正しい責任の取り方だと思っていたんです。

上司に責任を取って辞めたいと伝えたところ、「責任の取り方は辞めることじゃない。事故が起きた相手にきちんと向き合うこと。そして、なぜ起きたのかを考え、どうすれば二度と起きないかを考えることが君の責任だよ」と言われました。

──その言葉ですぐに納得できたのでしょうか。

いえ、すぐには腑に落ちませんでした。しかし、事故に遭われた方とご家族に向き合い続けることで、ただ頭を下げて辞めるのではなく、二度と同じ事故を生まないための対策も講じることが、プロとしての誠意なのだと、理解していきました。

事故から4年ほど経ったころ、そのご家族から「藤井くん、介護の仕事を辞めないでね。私たちの家族に起きたような事故が、ほかの誰かには起きないような介護現場をつくってほしい」という言葉をいただきました。

──その言葉が今の講師活動につながっているんですね。

そうですね。事故は決して起こしてはいけないものですが、その事故から学んだことや、気づいたことが多くあります。

大きな失敗をした人間だからこそ伝えられることがある。失敗から学び、それを共有・伝えることが今の自分の役割だという想いから、講師活動を始めました。

「考え続ける」が介護の仕事

インタビュー風景3

──講師として、受講生に一番伝えたいこととはなんですか?

相手に興味を持って向き合うこと」です。技術の前に、まずそこが大切だと伝えています。

例えば、同じ話を繰り返す利用者さんがいたとします。興味がないと「認知症だから仕方ない」と片付けて、そこで考えが止まってしまいますよね。でも興味があれば、「なぜこの話を繰り返すんだろう?」と疑問を持てるんです。

──疑問を持ったとしても、認知症の方の場合、その理由を汲み取るのは難しくないですか?

おっしゃるとおりです。言葉でうまく伝えられない方も多いですから。実際、僕が担当したある90代の利用者さんの場合、その行動の意味がわかるまでに3年かかりました。

その方は毎朝、故郷の味噌作りの話をされるんです。最初は症状の一つと受け流していましたが、3年ほど経ったある日、「伝統的な味噌の作り方を、誰かに継承したい」と訴えているように見えてきたんです。

そこで、レクリエーション活動で味噌作りを企画し、その方に先生役をお願いしました。すると、普段は会話が成立しにくいこともあったその方が、生き生きとした表情で、的確に手順を教えてくださったんです。

──理解するまでに3年……。根気がいりますね。

人によっては5年、10年かかることもありますし、最期までわからないこともあります。人の心は見えませんが、それでも「なぜだろう?」と考え続けることが介護の仕事です。想像力が必要だし、時間がかかって当たり前なんです。

──考え続けるって、すごく疲れる作業のようにも思えます。

ずっと答えのない問いを考えるのは疲れてしまいますよね。僕の場合は、一つのことに集中して考えるのではなく、常に「うっすら」意識するようにしているんです。

介護は人の生活を支える仕事ですから、普段の生活のなかにも、ケアのヒントがたくさん隠れています。例えば、休日にふらっと入ったカフェの居心地がよければ、「なんかいいな」で終わらせず、「照明の明るさが絶妙だからかな」「店員さんの距離感がいいのかな」と、その理由を少しだけ考えてみる。

そうやって自分の生活から拾ってきた「心地よさの理由」が、そのまま現場のケアに使えるアイデアになったりするんです。仕事中に悩み続けるよりも、街に出てヒントを拾い集める。そうやって視野を広げたほうが、ずっと気楽に、自然とアイデアが湧いてくるようになりますよ。

──さまざまな介護講師の方に伺っているのですが、藤井さんにとって「いい介護」とはどんな介護ですか?

この取材の依頼を受けてからずっと考えていたのですが、どうしても答えが出ませんでした……。

でも、答えが出ないことこそが、介護の本質なんだと思います。人によって求めるものは違いますし、昨日うまくいった方法が今日も通じるとは限りません。介護は、毎日新しい発見があり、そこからまた新しい課題が生まれる仕事です。

「これで完璧だ」と思った時点で思考が止まってしまいます。「いい介護ってなんだろう?」と問い続け、目の前の人に向き合い続けるプロセスそのものが、「いい介護」につながっていくのではないでしょうか

人生に正解がないように、介護にも正解はないので、興味を持ち続け、考え続けることが大切だと思います。

介護職で就職・転職を考えている方へ|介護職員初任者研修を取得しませんか?

ジョブメドレーが運営する「ジョブメドレースクール」では、都内最安水準で介護職員初任者研修講座をご提供。資格取得後は豊富なジョブメドレー求人をもとに、専属スタッフのキャリアサポートも受けられます。受講料無料になる特待生制度*もご用意しています。

*適用には条件があります

【詳細はこちら】ジョブメドレースクール

あなたにおすすめ