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暖房費のために働く人生…世帯年収1000万円未満の日本人がわざわざ「寒い家」を建てている不思議【一級建築士が解説】

暖房費のために働く人生…世帯年収1000万円未満の日本人がわざわざ「寒い家」を建てている不思議【一級建築士が解説】

数十万円が捻出できなければ、中古マンションを買え

省エネ仕様を向上させるイニシャルコストの数十万円を捻出する余裕がないのであれば、比較的安価な南向きマンションの中間階の中部屋の住戸を購入するほうがいいと思います。

近年はマンション価格が上がっています。新築が難しいのであれば、中古を購入する方法もあります。その際は、省エネ性能の向上のために内窓は設けてほしいです。マンションデベロッパーの中には、住戸の位置別の「燃費」を表示する会社も出てきました。

家づくりに当たり、ファイナンシャルプランナーなどに資金計画を相談する人は少なくないと思います。しかし、住宅の省エネ仕様に基づくイニシャルコストやランニングコストの違いを詳しく説明してくれるファイナンシャルプランナーはほとんどいないのではないでしょうか。

住宅ローンやライフプランを検討するのはもちろんですが、実は、住宅の省エネ仕様によるコスト比較を考えることは、物価高騰に比べて平均年収がなかなか上がらない日本においては非常に重要なことです。

厚生労働省政策統括官付政策立案・評価担当参事官室において、国税庁「民間給与実態統計調査」のうち、1年勤続者の平均給与を2015年基準の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で補正 [図表2]平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者) 厚生労働省政策統括官付政策立案・評価担当参事官室において、国税庁「民間給与実態統計調査」のうち、1年勤続者の平均給与を2015年基準の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で補正

欧米であれば、戸建て、マンション、新築、既存を問わず、きちんとした断熱性能を持った住宅がそれなりに普及しています。しかし、日本では新築ですら、先述した(1)と(2)の条件を満たす住宅は非常に少ないのが実情です。ましてや既存住宅となれば、ゼロに等しくなります。

マンションの中間階と1階の中部屋の住戸であれば、隣戸に囲まれているので、断熱性能が低くても窓さえ強化すれば良好な室内温度環境を維持できます。しかも南側にはバルコニーがあることが多く、これが夏の日射を遮蔽してくれます。

このように考えると、温熱環境の面ではメリットが多いマンションですが、問題もあります。より高い断熱性能を求められる寒冷地方ほど、マンションの絶対数が少ないということです。

特にマンションが少なく寒冷な地方では、先述した(1)と(2)の条件を満たす戸建てを建てることを最優先に考えてもらいたいと思います。それができない建て主は、暖房費のために働く人生になると言っても過言ではないでしょう。

家計が苦しい家庭こそ守りたい「マイホーム7ヵ条」

家計が苦しい家庭であればあるほど、先述した(1)と(2)に加え、以下の5項目も満たすようにすべきです。それができなければ、イニシャルコストが安くなっても結局、月々の支払いは多くなってしまいます。

(3)冬の日射取得(南面からの日射取得)

(4)夏の日射遮蔽(南面の庇、東西北面の窓の極小化、Low-E化)

(5)給湯器の選択(おひさまエコキュート)

(6)エアコンで冷暖房(エアコンが効く家にする。エアコンだけで冷暖房、除湿が完結する)

(7)太陽光発電

(5)について説明すると、一般的な住宅では給湯が最も多くのエネルギーを使います。給湯機器の選択は、設計者にとっては一瞬の判断ではありますが、住まい手にとっては機器が壊れるまでの10〜15年間の光熱費に大きく関わってきます。よく吟味する必要があると思います。

(資料:資源エネルギー庁) [図表3]世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費 (資料:資源エネルギー庁)

(6)に関しては、「エアコンは嫌いだから輻射型の暖房器具を使いたい」という要望があります。ただ、エアコン以外の冷暖房器具を選択することは、エアコンぐらいしか選択肢がない冷房器具にプラスして他の暖房器具を設置することになります。つまり、暖房設備の二重投資となるわけです。

(資料:松尾和也) [図表4]暖房器具別の光熱費単価 (資料:松尾和也)

暖房器具は何を選んでも、エアコンよりも光熱費が高くなることにも注意が必要です(まきストーブだけは、まきが無料もしくは格安で入手できればその限りではありません)。

なお、輻射型暖房の上質な心地よさは私も十分に理解しています。7つの項目をすべて満たした上で、一種のぜいたくや嗜好、日本の森を守るといった意味で採用するのであればよいでしょう。

隙間面積が多い住宅は、健康リスクにも関わる

最初に示した「(2)C値が最低でも1以下」という項目は、エアコンが効く住宅と密接に絡んできます。相当隙間面積(C値、建物の隙間を集めた面積(cm2)を床面積(m2)で除した値)が大きい住宅では、空気で冷暖房するエアコンは効きが極めて悪くなります。

それ以前に、C値が1よりも悪い住宅においては、大半の住宅が採用している3種換気では清浄な空気質を維持することが不可能です。これは健康リスクにも関わってくる項目なので、その意味でも重要です。

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