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JAL・Google“解雇”めぐる団交で「不当労働行為」認定…終身雇用“崩壊”の時代に求められる「誠実な対話」とは?

JAL・Google“解雇”めぐる団交で「不当労働行為」認定…終身雇用“崩壊”の時代に求められる「誠実な対話」とは?

東京都労働委員会が 1月15日、日本航空(JAL)およびグーグル合同会社(Google)の2社に救済命令を出した。不誠実な団体交渉は不当労働行為に該当すると認定し、行為の禁止などを命じた。

長くこの事案にかかわってきた関係者からは「画期的だ」との声も聞かれたが、“岩”が大きく動いたその背景になにがあったのか。労働関連の法律に精通し、団体交渉にも詳しい向井蘭弁護士に聞いた。

なぜ15年前の解雇問題で「不当労働行為」とされたのか

JALの事件では2010年の整理解雇から15年に及ぶ長期的な労使紛争がありました。そうした中で今回、都労委が団体交渉拒否(不誠実団交)を明確に認定した背景としてどんなことが考えられるのでしょうか。

向井弁護士: 最大のポイントは、「法的決着」と「団交義務」は別物であるという労働委員会の一貫した姿勢です。

JAL側は、2010年の整理解雇の有効性については最高裁で確定しており、「裁判で全て議論し尽くした」という立場でした。しかし、都労委は、組合が求めた「2011年3月時点の人員数と当時の更生計画との整合性」という具体的な事実確認に対し、会社が「裁判記録を見てほしい」と述べるだけで具体的な見解を示さなかった点を「不誠実」と認定しました。

背景には、解雇から長期間が経過していたとしても、組合が新たな観点(今回は安全報告書の数値と更生計画の乖離)から説明を求めた場合、使用者は「昔の話だ」「解決済みだ」と門前払いするのではなく、その疑問に対して誠実に応答する義務(誠実団交義務)が残存しているという判断があります。

企業側としては、「裁判で勝ったから終わり」ではなく、組合が新たな根拠を持って問いかけた場合には、たとえ結論が変わらないとしても、そのプロセスにおいて丁寧に説明を尽くさなければならないという教訓が得られます。

安全運航と労務施策の相関関係

組合側は不誠実な労務施策が安全運航に悪影響を及ぼすとも主張していました。こうした視点から今回の決定をどのように捉えられるでしょうか。

向井弁護士: 本命令は、安全運航そのものについて判断したわけではありませんが、「安全に関わる人員体制」は労働条件に深く関連する義務的団交事項であることを再確認したと言えます。

組合は、解雇後の実人員数が、安全運航に必要とされた計画人数を下回っていたのではないかという点を問題視しました。会社側にとっては「経営専権事項(人員配置)」や「安全管理」の領域であっても、それが従業員の労働密度や労働条件に直結する以上、組合への説明責任が発生します。

都労委は、この点について会社が「別件訴訟と同じでもいいから内容を示してほしい」という組合の譲歩的な求めにも応じなかった対応を批判しました。企業は「安全」という大義名分を掲げるだけでなく、それを支える人員体制の妥当性について、労働組合に対して客観的なデータを用いて説明できる準備が必要不可欠です。

グローバル基準 vs 日本の労働法

本国の指示でも日本の労働組合法では”治外法権”(yoshiaki / PIXTA)

Googleのケースは、世界共通の基準による「メール一本で期限を切って退職を迫る」といった手法の、日本の雇用慣行や労働法規との衝突といえます。命令の背後にどのようなメッセージがあると考えられるでしょうか。

向井弁護士: 「グローバル企業の本社の決定であっても、日本法人の団交応諾義務は免除されない」という点です。

Google側は、人員削減はグローバル全体の決定であり、日本法人単体での数値目標や選定基準はない、あるいは本社権限であるため開示できないと主張しました。しかし都労委は、日本法人として雇用契約を結んでいる以上、以下の点について誠実に対応すべきだったと断じました。

1. 数値目標や対象人数の開示:「本社が決めた」で済まさず、守秘義務契約を結んだ上での開示や、開示できない具体的弊害の説明努力をすべきだった
2. 選定基準の説明:「ビジネス上の判断」と回答するだけでは無く、どのポジションがなぜ削減されたのか、可能な限り本社に問い合わせてでも回答する努力義務がある

これは、多くの外資系企業に対する警鐘です。

「本国の指示」は、日本の労働組合法における「正当な理由」にはなり得ません。日本法人の担当者は、本国と板挟みになっても、日本の法的手続き(プロセス)を尊重し、情報を引き出して組合に提示する汗をかく必要があります。

JALとGoogle、二つの命令の共通項

両事件は、伝統的な基幹産業(JAL)と急成長したテック企業(Google)という対照的な企業の事案です。同じタイミングで出された救済命令にどのような共通の意義を見いだせるでしょうか。

向井弁護士: 共通する意義は、「説明責任とプロセスの重視」です。

  • JALの場合:過去の確定判決を盾に、具体的な数値への質問に対する説明を省略したことが「不誠実」とされた
  • Googleの場合:グローバル方針を盾に、日本独自の選定基準や数値の開示を拒んだことが「不誠実」とされた

両者に共通するのは、結論(解雇やリストラそのもの)の是非よりも、「そこに至る経緯や根拠を、組合に対してどれだけ真摯に開示・説明しようとしたか」というプロセスが問われている点です。

都労委は、企業規模や業種に関わらず、「情報は持っている側(会社)が、持っていない側(組合・労働者)に対して誠実に提供しなければ、対等な交渉は成立しない」という原則を厳格に適用しています。

黒字リストラ時代の新しい労使関係とは

大企業を中心に黒字リストラが続いています。実質的に日本企業の終身雇用制度はすでに崩壊していますが、そうした中で労働側の権利を守るような流れは、今後の労使関係にどのような影響を与えるでしょうか。

向井弁護士: 終身雇用制度が崩壊し、人材の流動性が高まる現代において、労働組合の役割は「雇用の絶対維持」から「納得感のある退職プロセスと公正な条件の確保」へとシフトしています。

今回のGoogleのケースのように、退職勧奨自体が直ちに違法とされるわけではありませんが、その対象者の選定基準や、育休取得者への配慮などがブラックボックス化することは許されなくなります。

今後の労使関係では、企業側には「経営上の必要性だから従え」という姿勢ではなく、「データに基づく透明性の高い経営判断の開示」が求められます。これは、労働者側が企業を監視する機能(コーポレート・ガバナンスの一環)を強めることにも繋がり、結果として無茶なリストラに対する抑止力として機能するでしょう。

今後の「労使の信頼関係」のあり方はどうなる?

今回の命令が「画期的だ」とする声もあります。今後、企業はより以上に労使関係の健全化が求められることになりそうですが、終身雇用制度に代わる、新しい労使の信頼関係はどのような形へと変質していくのでしょう。

向井弁護士: 「画期的」と言われるのは、都労委が、巨大企業の「説明拒否」の論理(「裁判で勝った」「グローバル本社が決めた」)を明確に否定した点にあります。 労使関係のこれからについては、かつての「家族的経営」に基づく情緒的な一体感ではなく、「プロフェッショナルな緊張関係に基づく対話」へと変化していくべきでしょう。

「新しい信頼関係」とは、以下の3要素で構成されます。

1. 透明性:悪い情報や不都合なデータも含めてテーブルに乗せること
2. 合理性:感情論ではなく、数値やビジネスロジックで対話すること
3. 手続的公正:結論ありきではなく、交渉のプロセス自体を尊重すること

企業は労働組合を「経営の阻害要因」とみなすのではなく、「コンプライアンスとガバナンスをチェックするステークホルダー」として位置づけ直し、高度な情報開示を行うことが、結果として紛争の長期化を防ぐ最短ルートとなります。

企業側は今後、労使交渉において、どのようなスタンスで労働者と向き合うべきでしょうか。

向井弁護士: 今回のJALとGoogleの事例が示しているのは、面倒だと思い対応が横着になれば、それが「命取り」になることです。

「もう終わった話だ(JAL)」や「グローバル本社権限であり開示できない(Google)」という態度は、法的には「不誠実団交」という不当労働行為を構成します。

特にリストラや組織再編の局面では、以下の徹底を推奨します。

  • 「わからない」「答えられない」で終わらせない→なぜ答えられないのか、どうすれば答えられるのか、代替案はないのかを提示するプロセスを残す
  • グローバル企業の本社への教育→日本の労働法制(特に団交応諾義務の強さ)を本社に理解させ、必要なデータを開示させることは、日本法人人事(HR)の重要な責務である
  • 記録の重視→どのようなデータを基に意思決定したのか、その証拠を常に提示できるよう準備する

「誠実さ」とは、譲歩することではありません。相手の問いに対して、正面から向き合い、根拠を持って答えることです。この基本動作の徹底こそが、最大のリスクヘッジとなります。

配信元: 弁護士JP

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