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「犯罪加害者の家族も支援されるべき」 “嫌われても”政治家や心理士が支援に取り組む理由

「犯罪加害者の家族も支援されるべき」 “嫌われても”政治家や心理士が支援に取り組む理由

2023年9月、関東弁護士会連合会は「刑事加害者家族の支援について考えるシンポジウム」を開催した。

今後、こうした弁護士の動きは日弁連(日本弁護士連合会)などにも広まっていく可能性があるものの、一般の人々が「犯罪加害者とその家族」に向ける視線は厳しい。

日本国内では加害者だけではなく、その家族にも非難の矛先が向かうことが多い。また、加害者家族は転職や転校を余儀なくされるだけではなく、夜逃げや自死に至るケースも少なくない。

こうした経緯から、受刑者の出所後は家族が受け入れを強く拒否し、居場所がない元受刑者が再犯に至るケースもある。

犯罪加害者とその家族への支援は、被害者を置き去りにしたように見えるために、世間では「嫌われるテーマ」だ。しかし、この課題に光を当てるべき理由もある。

本記事では、衆議院議員で犯罪加害者家族支援に力を入れている中谷一馬氏(立憲民主党)と、刑務所で性犯罪者処遇プログラムを担当する臨床心理士の相澤雅彦氏への取材を通じ、加害者とその家族になぜ支援が必要なのか整理する。(聞き手:岩田いく実)

不人気で支持されないテーマだからこそ、政治家が「犯罪加害者家族」支援を求めるべき

衆議院議員の中谷一馬氏は、2021年3月17日の衆議院法務委員会で犯罪加害者家族の支援に関する質問に立った。(※)

※衆議院「第204回国会 衆議院 法務委員会 第4号 令和3年3月17日」

質問内容は「犯罪加害者家族への差別・排除を防ぎ、再犯防止の観点から政府が実態調査や諸外国の支援研究を行った上で、課題解決に向けた支援を行う意思があるのか」というものだ。

犯罪加害者やその家族への支援に関心を持つ国会議員は皆無に近い。国会で中谷氏が質問に至った背景には、壮絶なバックボーンと、そこから生まれた強い使命感があった。

犯罪加害者の家族支援に関して、法務委員会等での質問に至った経緯を教えてください。

中谷氏:「きっかけは、自分の周りに犯罪加害者家族の子どもが多くいる環境でたまたま育ったことが挙げられます。

私の周りは落ちこぼれて高校に進学せず、中卒で働く子が多かった。私自身、俗に言うアンダーグラウンドな世界で生きていたので、脱法ドラッグで亡くなる友人がいたり、親が加害者になった影響で、ある日突然引っ越す子もいたりしました。

世の中はこのままでは何も変わらない、だったら自分で変えようと思ったのがまず政治家になったきっかけなんですね。

その中で(抱いた)、『落ちこぼれだった私からこそわかる、自分じゃないとできないことをやろう』という使命感が、犯罪加害者家族の支援にもつながっています」

犯罪加害者家族の支援にはNPOの活動などもありますが、国が整備すべきポイントはどのようなものでしょうか。

中谷氏:「最も重要なのは、犯罪に無関係な加害者の家族、特に子どもたちを、世論の攻撃や差別・排除から守るための公的な仕組みを確立することです。

犯罪加害者の家族は、メディアスクラムやSNSでの攻撃により、転居や進学断念、さらには自責の念による自死にまで追い込まれています。

特にSNSの時代は個人の『行き過ぎた正義』が事件と関係がない加害者の子どもにまで及び、人権を侵害しています。現状を改善するためには、無関係な家族への人権侵害を防ぎ、健全な生活を送る権利を保障するための対策を講じるべきです。

こうした対策は民間やボランティア任せにするべきではありません。現状では加害者家族が相談できる専門機関すらないため、早急に公的な対応を行うための環境整備が必要であると考えています」

中谷一馬氏(撮影・岩田いく実)

加害者本人やその家族への支援は、被害者支援と対立する可能性もあります。国が導入する際にはどのような配慮が必要でしょうか。

中谷氏:「まず当然ですが、被害者支援、被害者家族の支援をしっかりと行うことが重要です。その上で加害者の家族を支援することは対立するものではないということを社会的に認識することが必要です。

例えば、加害者が刑期を終えた時に帰る場所があることは再犯率の低下につながります。罪を犯した人が社会に出た際、家族の愛情や見守る環境といった『きずなの受け皿』がなければ、その人は再び孤立し、再犯を繰り返す可能性が高まるという統計もあります。加害者やその家族への支援は、社会にとって必要な支援です。

アメリカの社会学者であるトラヴィス・ハーシが提唱した『社会的きずな理論』(※)では「人は社会との絆(きずな)がある時には犯罪することをとどまる」とされています。

※1969年の著書『Causes of Delinquency(非行の原因)』で提唱。

(この理論は)アメリカやイギリスなど諸外国では加害者側への支援政策の背景として共有されており、受刑によって家族との関係が絶たれ、帰る場所」が失われることで再犯が繰り返されない制度が整備されています。

日本国内でも加害者家族、特に子どもたちを支援するようなプログラムを導入し、加害者家族が加害者を家族として受け入れて、社会の中で再び共生できるような社会を作った方が、結果として国の秩序を守ることにつながるはずです。

『被害者支援と加害者支援を対立構造で捉えるのではなく、加害者家族の支援をすることが、再犯率の防止にもつながり、結果として未来の被害者を減らすことになる』という、社会全体を好循環させるためのロジックに基づいています」

法務委員会での質問以降、加害者家族支援の整備は進んでいない模様です。今後についてはどのようにお考えですか。

中谷氏:「私の質問に対し、上川陽子法務大臣(当時)は誹謗(ひぼう)中傷にさらされている加害者家族、特に子どもへの支援は極めて重要であり、社会が彼らに光を当てることは不可欠だと前向きな答弁をしました。

その後、具体的な制度整備には至っていませんが、あの時質問をしていたので、こうして報道の目にとまり今日お話しできる機会が得られましたよね。

自分が衆議院議員の立場から積極的に発言することで、今後も少しでも犯罪加害者家族の支援の強化につなげたいと思っています。そもそも犯罪加害者支援が必要だとすら知られていないため、まずは、一般の方々にも広く知っていただきたいです。

認知度が上がると、公的な相談機関が存在しない現状にも、疑問を持つ方も増えてくるでしょう。もちろん、加害者やその家族なんてサポートしなくていいという声も増えると思います。加害者家族支援に関心を持つ議員も少ないですしね。

しかし、誰もが排除されない社会と、再犯を生まない安全な社会の両立を目指すためには、誰かが声を上げ続けるしかありません」

刑務所の中で行われる、加害者本人への支援とは

中谷氏が国会で加害者家族が抱える問題を提起する一方、刑務所では再犯防止に向けた専門的な加害者自身への処遇プログラムが、民間心理職の力を借りて進められている。

某刑務所で性犯罪者の再犯防止に向けたプログラムを担当する臨床心理士の相澤雅彦氏に、現場での支援やこれからの必要と考えられる制度について聞いた。

現在携わっている性犯罪者の再犯防止プログラムについて詳細を教えてください。

相澤氏:「性犯罪者処遇プログラムは2006年から実施されていますが、約15年前に私のような民間の心理職等が処遇カウンセラーとして指導に携わるようになりました。心理職については長らく国家公務員の心理技官が中心だった司法領域に、民間の専門家が関わるようになった画期的な流れです。(※)

※法務省「刑事施設及び保護観察所の連携を強化した性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)」

私が参加しているプログラムは刑務所内で週2回、おおよそ3〜10か月の期間にわたって刑務官や法務教官等の施設職員2名と民間の心理職である処遇カウンセラー1名のチーム制で指導にあたっています。

性加害者複数名で構成したグループに対して、認知行動療法(※)に基づき、『認知のくせ』や『感情コントロール』といったテーマに沿って、受刑者が自分の行動の背景にある思考や感情を理解し、安全な行動を学び直すことを目指すものです」

※思考や信念が感情と行動に影響を与えるという原理に基づき、認知パターンを修正する心理療法

繰り返し面談をしているのですね。受刑者に共通する特徴はありますか。

相澤氏:「全ての受刑者に共通するわけではありませんが、プログラム参加者には、これまでの生育環境が恵まれていなかったり、社会的に孤立していたりなどの理由で、正しい知識に触れる機会がなかったというケースが多く見られます。

彼らは、自分の行動に影響していた認知や感情についてプログラムを通して知り、『もっと早く学んでいれば』と口にすることも少なくありません。グループワークを通して、プログラムを最後までやり遂げる過程で、指導者や他の受講者との人間関係を築くことも貴重な経験となるように感じます。

プログラムの現場では、異なる立場や経験を持つ指導者が専門的な知見を共有し合えることから、指導に携わるスタッフにとっても、受刑者に対して効果的な関わり方をするための学びを得られる機会となっています」

民間の性依存者へのプログラムと相違する点はありますか。

相澤氏:「認知行動療法がベースとなっている依存症へのアプローチについては民間のプログラムとの共通点は多いと思います。

刑務所内でのグループワークでは『今日は認知のくせ』『今日は感情コントロール』といったテーマが明確にあり、ただ語り合うのではなく、学びと理解を促す構成になっています。これは自助グループモデルとは大きく異なる点ですね」

今後、加害者支援や再犯防止の分野で法的な整備が必要だとすれば、心理職の視点から見るとどのような点を重視すべきだと考えますか。

相澤氏:「まず、加害者支援を『社会に必要な公共的サービス』として位置づける法整備が必要だと思います。現在の社会ではプログラムによって制度の位置づけが曖昧で、担当者の配置やプログラムの継続性も現場任せの部分が多いのが実情です。安定した制度基盤を作ることで、専門職の育成や長期的な支援の質を担保できるようになります。

さらに、司法・矯正領域に関わる民間心理職の資格や役割の明確化も必要です。拘禁刑の施行で民間プログラムの知見が導入される可能性が期待されます。加害者支援についても民間の心理職がより関われるように制度的に整理されれば、効率的な連携が可能になるのではないでしょうか」

誰もが排除されず、再犯も生まない社会へ

犯罪加害者自身やその家族への支援は、子どもも含めた家族の人権を守るだけではなく、再犯率を抑制する効果もある。刑務所内では加害者の更生に向けたプログラムの整備がスタートしており、拘禁刑の施行とともに浸透していくことが期待されている。

一方で、加害者の家族への支援は議論さえ足りていないのが現状だ。特に重大事件時には暴走する正義が新たな加害者を量産し、加害者家族を被害者へと追いやってしまう現実もある。

人権擁護の視点から法整備が必要だ。誰もが排除されない社会と再犯を生まない安全な社会の両立を目指すためにも、被害者支援と相反しない加害者支援の整備が不可欠ではないだろうか。

■プロフィール

中谷 一馬:

1983年生まれ。母子家庭で育ち中学卒業後に就職。働きながら横浜平沼高(通信制)、呉竹鍼灸柔整専門学校、慶應大(通信)で学び、デジタルハリウッド大学院を首席修了。IT企業gumiへの創業参画や菅直人秘書を経て、27歳で県議に最年少当選。2017年から衆議院議員(現在3期)。立憲民主党副会長や神奈川県連幹事長等の要職を務める。2児の父。

相澤 雅彦:

特定非営利活動法人WorldOpenHeart 臨床心理士/ソリューションフォーカスト・アプローチを中心に個別及び集団心理療法や不適応行動の改善プログラムに取り組む。刑事施設内処遇カウンセラー、公立学校スクールカウンセラー等として活動。著作『加害者家族支援の理論と実践―家族の回復と加害者の更生に向けて―』、『性犯罪加害者家族のケアと人権―尊厳の回復と個人の幸福を目指して―』等。

岩田 いく実:

損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。

配信元: 弁護士JP

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