いつまでも輝く女性に ranune
解雇トラブル“カネで解決”、政府が“制度化”検討も…労組側は抗議声明「恐怖で物が言えなくなる社会に」

解雇トラブル“カネで解決”、政府が“制度化”検討も…労組側は抗議声明「恐怖で物が言えなくなる社会に」

厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会は昨年11月、「解雇の金銭救済制度」について、有識者検討会を2026年に立ち上げる方針を確認した。これに対し、全国労働組合総連合(全労連)と雇用共同アクションは1月20日、「制度は不要であり、解雇の増加を招く」としてそれぞれ談話と抗議声明を公表した。

政府内で続いてきた検討の流れ

解雇の金銭解決をめぐる議論は、今回が初めてではない。2015年の規制改革会議の意見書や、2017年の「新しい経済政策パッケージ」閣議決定では、解雇が無効とされた場合に「現在の雇用関係継続以外の権利行使方法として、金銭解決の選択肢を労働者に付与すること」が検討課題として位置づけられてきた。

こうした政府方針を受け、厚労省は2018年から2022年にかけて「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を設置。

裁判で解雇が無効となったときに、労働者の申立てにより使用者が一定額の「労働契約解消金」を支払い、その支払いによって労働契約が終了するという枠組み案などを整理した。ただし、この段階では「導入の是非」は結論を出さず、労働政策審議会での議論に委ねるとされていた。

昨年11月18日の労働条件分科会では、これまでの検討結果や新たな調査データを踏まえ、法学者だけでなく経済学者も交えた有識者検討会を2026年に設ける方向性が確認された。今後は、この検討会が制度設計の具体案を議論し、その後に労働政策審議会で導入の是非が検討される見通しだ。

解雇・リストラ増加の中での議論

全労連事務局長の黒澤幸一氏は談話で、現在の雇用環境について「大企業を中心に解雇・リストラが進められている。AIの活用や成績不良を理由にPIP(業務改善計画)を利用しての事例が増えている」と指摘する。黒字経営であるにもかかわらず人員削減を進める企業も少なくないとし、「企業の横暴が広がっている」と強い表現で批判した。

こうした状況のなかで、解雇トラブルを「お金」で終わらせる新たな制度が検討されていることに、労働組合側は強い警戒感を示している。

裁判に勝っても「戻らない」選択肢

現在の日本法制では、解雇が裁判で無効と判断されると、原則として「解雇は最初からなかったもの」と扱われ、労働契約は継続しているとみなされる。労働者には職場に復帰する権利があり、その間の未払い賃金(バックペイ)も請求できる。

検討されている解雇金銭解決制度は、この「復職」の代わりに、「一定の金額を受け取って労働契約を終了させる」という道を、労働者側の申立てに基づいて用意しようとするもの。

イメージとしては、こうだ。

  • 解雇が不当だと考えた労働者が裁判を起こす
  • 裁判所が「解雇は無効」と判断する
  • そのうえで、労働者が「元の職場には戻らず、お金で決着したい」と申し出た場合、裁判所が一定の基準に沿って金額を決め、使用者が支払うことで労働契約は終了する

既に現在も、復職が事実上難しいケースでは、和解や判決の中で金銭解決となる例は存在するが、政府内の議論では「金額の決め方をもう少し予見可能にする」「制度として位置づける」方向が検討されている。

政府・制度側が想定するメリット

政府や一部の専門家は、この制度の狙いとして、主に次のような点を挙げてきたとされる。

  • 長期化しがちな解雇訴訟を、一定の基準に基づく金銭支払いで早期に解決しやすくする
  • 職場との関係がこじれ、心理的に元の職場に戻りづらい労働者に、「お金を受け取って新しい職場に移る」という選択肢を制度として明確にする
  • 解決金の算定要素(賃金額・勤続年数・年齢・再就職にかかる合理的な期間など)を整理し、労使双方にとって見通しを持ちやすくする

もっとも、これらはあくまで制度設計側から見た期待であり、「本当にそう機能するのか」「副作用はないのか」が今回の大きな争点になっている。

「解雇の恐怖で物が言えなくなる社会に」

全労連は談話で、まず「間違った考えが広がる可能性が高く、制度そのものが不要だ」と明確に述べる。その理由は、すでに現在の裁判実務の中でも復職が難しい場合には金銭解決が行われており、「新たな制度を作らなくても対応できる」という見方だ。

黒澤氏は「むしろ復職を実現する制度が検討されるべきである」として、解雇無効判決が出たにもかかわらず現実には復職が進みにくい現状に目を向けるべきだと訴える。

また、雇用共同アクションの抗議声明が特に強調するのは、「一定の金額を支払えば解雇ができる」という発想が広がることへの懸念だ。

声明では、制度導入とともに解決金の上下限額や算定基準が示されれば、「この金額を用意すれば解雇ができると認識する使用者が現れることを懸念する」と述べている。そうなれば、現在よりも解雇が頻繁に行われる可能性が高いとし、次のような具体的な懸念も挙げる。

  • 恣意的な人事評価で低評価を受けた労働者や、会社の方針に異を唱える労働者が狙い撃ちされる
  • 「違法な解雇」であっても、金銭さえ支払えば事実上「買える」状態になりかねない

全労連も似た問題意識から、「解雇の恐怖で物が言えなくなる社会になる」と警鐘を鳴らす。

こうした反論もあり、上野賢一郎厚労相は昨年12月16日の会見で次のように述べている。

「審議会の委員からは、『安易な解雇を促進しかねないため、導入すべきではない』といった意見があったということも承知しています。

非常に、労働法制の中でも特に重いテーマであるので、多くの労働者の皆さんが、自らの労働の対価である賃金によって生計を立てていること等を踏まえて、丁寧に、また慎重に議論を進める必要があろうかと考えています」

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ