◆家があるのに“餓死寸前”の理由
投資詐欺に遭い、離婚しマンションを売ることになったという50代のサラリーマンFさんも、初めて年始の炊き出しに参加したと話す。円安の中、家族のために少しでも資産を増やそうとしたのが裏目に出たようだ。「収入の大半は養育費と借金の返済でなくなります。会社も辞めて自己破産して、生活保護を受けた方がいいかと思ったんですが、役所に行ったらまずマンションがあるなら処分しろと。でも弟と共同名義だから売れなくて……」
ここ最近はカップ麺を食べたが2日間は絶食。そんななか、炊き出しで命を繋いだという。
「助かりました。餓死するなんて冗談じゃないですから」
飲食店を経営していたが、だまされて借金を背負い、今はアルバイトをしているというGさん(50代男性)も常連だという。
「今はホームレスはほとんどいなくて、正規でも非正規でも何かしら仕事をしている人が多い。炊き出しは都内なら毎日どこかでやっているし、障害者手帳を持っていれば交通費無料パスをもらえるから、回ってればそれで食っていける。そんな人いっぱいいるよ。僕は別居している嫁と子どもを、いつか迎えにいくつもり。だから炊き出しを使いながら頑張ってるの」
◆背景には、「見えない貧困」の急増がある
彼らに共通しているのは、失業しているわけではないという点だ。会社に通い、仕事をし、収入もある。それでも、医療費や物価高、業界不振といった複数の要因が重なり、日々の生活が立ち行かなくなっている。列に並ぶ理由は切実だが、声は荒立てず、どこか遠慮がちなのが印象的だった。イギリス人と日本人が共同運営する「グラマ・セバ・ジャパン」の食料・生活用品配布では70人分が用意されたが、並んでいる人数で既に不足していた。
同団体の担当者によると「受け取りに来るのはホームレスではなく、年金受給者や若い人、家はあるが食べ物がない人。サラリーマンや女性も目立ちます」という。
こうした変化について、都内で生活困窮者向けの食料配布を行っている特定非営利活動法人TENOHASIの代表理事、清野賢司氏は「利用者はこの数年で急激に増えました」と話す。2019年には1回あたり平均166人だった利用者数は、おととしには530人、昨年度は548人に達した。
アンケートでは、利用者の約7割が「家がある」と回答しており、清野氏は「完全な路上生活者ではなく、仕事をしながらも生活が立ち行かなくなった人が目立つようになった」と指摘する。親の年金が頼りという人も多く、中には月収30万円でありながらも、炊き出しを回っている人もいるという。「30万円でも足りない事情があるのでしょう」と清野氏は話す。
同様の傾向は、都内で定期的に食料配布を行っているNPO法人「もやい」でも見られるという。理事長の大西連氏は、「ひと昔前は路上生活者や完全失業者が中心でしたが、今は年金生活者、非正規雇用者、生活保護を受けながら働く人など、いろいろな組み合わせの方が並んでいます」と語る。派遣切りや家賃の初期費用の壁によって、シェアハウスやネットカフェ暮らしを余儀なくされる人も多く、住まいが不安定な状態では安定した仕事に就くことも難しい。
「野宿ではないが、家があるとも言えない。仕事はあるが十分な収入にはならない。そうした新しいタイプの生活困窮者が、いま炊き出しの列を長くしているのです」。
大西氏は、物価上昇に賃金や支援制度が追いつかず、公的支援からもこぼれ落ちる層が今後さらに広がる可能性を指摘する。現場で静かに列をつくる人々の姿は、その“見えにくい貧困”がすでに日常の風景になりつつあることを物語っていた。

―[[炊き出しに900人が並ぶ]日本の窮状]―

