容疑者らは、偽造した運転免許証を使って所有者になりすまし、司法書士が代理人として登記申請を行った疑いが持たれている。登記簿が変更された後、この不動産は実際に売りに出され、複数の購入希望者が現れていたとされる。もし売買が成立していれば、被害はさらに拡大していた可能性が高い。
この事件が波紋を広げている理由は、「地面師」と呼ばれる詐欺グループの関与が疑われている点だけではない。不動産取引において、本人確認や権利関係のチェックを担うはずの司法書士が関与していたことが、取引の”最後の砦”が突破された形となったからだ。
その構図は、ドラマ『地面師たち』で描かれた手口と驚くほど重なる。なりすまし、偽造身分証、専門家の関与――フィクションだと思われていた手口が、現実の不動産市場でも通用してしまったのだ。
では、なぜこのような詐欺は防げなかったのか。司法書士は本来どこまで確認義務を負う立場なのか。こうした地面師被害は、一部の一等地や巨額物件に限られる話なのか、それとも一般的な住宅や相続予定の家でも起こり得るのか。
不動産取引の安全神話が揺らぐ今回の事件について、法的な視点から見ていきたい。

◆なぜ地面師詐欺は「ハイリスク・ハイリターン」なのか
「不動産取引では、単なる口約束では権利が動きません。所有権を移転させるためには、権利証(登記識別情報)や印鑑証明書、実印といった、法的に有効な書類をそろえた上での『同時履行』が商慣習として求められます」そう語るのはアディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士だ。
他の投資詐欺であれば、口約束や虚偽の説明だけで資金を集めることも可能だが、不動産取引ではそれが通用しない。それだけに、この「同時履行」、つまり不動産決裁(代金決済)が非常に重要な意義を持つという。
「ドラマ『地面師たち』で象徴的に描かれた『もうええでしょう』という場面も、まさしくこの巨額のお金・権利が動く瞬間でした」
不動産詐欺は事前準備が極めて入念で、司法書士のような専門家の協力も必要となることから、犯罪としてのハードルは高い。にもかかわらず地面師詐欺が後を絶たない理由について、南澤弁護士はこう説明する。
「不動産取引は短期間で取引が完結する反面、一度成功すれば動く金額が非常に大きく、犯罪者側にとってハイリスク・ハイリターンになりやすいことにあると考えられます」
◆今回の事件とドラマの手口はどう違うのか
いわゆる「地面師」とは、赤の他人が所有する不動産について、本人になりすまして所有権を移転させる詐欺を行う者を指す。この点において、今回の事件は典型的な地面師事件と言えるだろう。しかし、ドラマのモデルとされる積水ハウス地面師事件(五反田事件)と比べると、今回の事件には特徴的な相違点もあるという。
「最大の違いは、司法書士がより主体的に関与していた点です。積水ハウス事件では、あくまで『個人所有者へのなりすまし』であり、極論すれば、取引現場にいる人物が本人ではないと見破られれば、騙されることはありませんでした。また、取引後の登記申請も結果的に拒絶されています。しかし今回は、虚偽の委任状が作成され、取引現場の機会を作らずに、登記が移転されています。法務局をも欺いたという点が積水ハウス事件との違いであり、強奪とすらいえる荒業です」
このように、ドラマのような取引を行うことなく、司法書士によって虚偽の登記移転が行われたという側面がある。

