◆なぜ偽造免許証で登記が書き換えられてしまうのか
「率直に言えば、現行の登記申請制度では、完全に見抜くことは困難です。登記手続を行う法務局には形式的審査権しか認められておらず、形式上整った書類が提出されてしまえば、登記は書き換えられてしまうからです」今回の場合、起点と考えられるのは逮捕された司法書士による「住民票の取得」だという。
「司法書士は、『職務上請求』という制度によって住民票を取得することができますが、これによって取得された住民票を悪用して本来の不動産所有者の住民票を取得し、そこから免許証の偽造に繋げ、偽造された免許証を元に印鑑証明を乗っ取り、登記の偽装に繋げる、という手順が取られたのではないでしょうか」
一度でも真正とおぼしき書類があれば、そこからドミノ倒しのように偽りの手続が連鎖してしまうのだ。
この根本要因として南澤弁護士は、法務局に形式的な審査権しかない点に加えて、「いわゆる『役所仕事』という言葉のイメージ通り、各手続段階が流れ作業のようにアナログに処理されてしまう、日本の行政の限界もあると考えられます」と指摘する。
◆司法書士は「グル」か「被害者」か
司法書士は、不動産登記申請にあたり、「依頼者本人であることの確認」「提出書類の真正性の確認」「登記の適法性の確保」といった注意義務を負っている。「『なりすまし』があった場合でも、司法書士の立場では、『騙された』という言い訳は成立しません」と南澤弁護士が断言するとおり、もし「地面師」のなりすましを見抜けなかった場合、民事上の損害賠償責任や懲戒処分の対象となり得るという。南澤弁護士によれば、判例上も、本人確認を形式的に済ませた結果、詐欺被害が発生した場合、司法書士の注意義務違反を認め、高額の損害賠償責任を負わせた例があるそうだ。
今回の事件では、さらに重大な問題もある。
「今回に関しては、本人確認という点以上に、司法書士の職務上請求によって取得された住民票をもとに免許証が偽造されたと考えられます。この『職務上請求』は、司法書士や弁護士などの有資格者しか行えない権限で、法的手続のために住民票取得ができる制度です。
もし有資格者にのみ認められた制度が犯罪に悪用されたのであれば、司法書士の信頼性を損なう言語道断の悪行といっても過言ではありません」
今回逮捕された司法書士は「自分も被害者である」「地面師であればとっくに捕まっている」などとメディアの取材に応じていたようだが、南澤弁護士は「被害者であるどころか、犯罪の中核を担っていたという評価をされる可能性もあると思われます」と指摘する。

