「残すべきか、使うべきか」子どもたちへの相続という重荷
また、田中さんは相続についても悩みを抱えています。田中さんには30代の息子が2人います。長男は大手メーカーの技術者、次男は公務員として安定した生活を送っています。
「息子たちには『私たち夫婦のお金の心配はしなくていい』と言っていますが、それ以上のことは伝えていません。このまま使わずに死ねば2億円以上の相続になりますが、彼らもそんな額とは想像もしていないでしょう。それに、実際にどうやって引き継がせるか、正直よくわからないんです」と言います。
現在の資産額なら確実に相続税が発生します。さらに、投資信託や株式の相続手続きは複雑で、息子たちがスムーズに引き継げるかも不安です。
「現役時代は『余ったら子どもたちに財産を残そう』と思っていました。でも今になって思うのは、お金を残すことが本当に彼らのためになるのかということ。大金があることで兄弟での相続トラブルが起きる可能性もゼロじゃない。だったら、残すのは多すぎない程度にして、夫婦で使ったほうがいいんじゃないかって」
同調査で遺産についての考え方を尋ねたところ、「子どもはいるが、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい」という回答が60代で20.2%、70代で23.4%に上りました。年齢が上がるほど「使い切りたい」派が増える傾向にあります。
田中さんのように「残すべきか、使うべきか」で揺れ動くシニアは決して少数派ではないのです。
FPが提案する「不安を和らげる出口戦略」
田中さんのような悩みに対して、まずは「資産の目的別分類」を提案します。
まずは資産を3つに分けること。①生活資金、②楽しみ資金、③相続資金です。田中さんの場合、①は年金で十分カバーできます。問題は②と③の境界が曖昧なことです。
具体的には、5,000万円などまとまった金額をリターンがプラスの銘柄から売却。「楽しみ資金」として銀行口座に切り分け、これは罪悪感なく使うと決めます。残りは相続資金として管理する。このように目的を明確化することで、心理的な障壁を下げられます。
長年かけて築いてきた投資資産を自らの判断で売却するのは簡単ではありません。だからこそ重要なのが、明確な理由付けをすること。「楽しみ資金」として目的を切り分けてしまえば、売却は浪費ではなく、人生の満足度を高めるための“計画的な資産活用”になります。
さらに、「取り崩しの自動化」、つまり毎月一定額を自動的に生活口座に振り替える仕組みを作ることも有効です。自分でいちいち売却ボタンを押す必要がなくなれば、「減らす恐怖」が和らぎます。投資信託の定期売却サービスを活用するのも有効です。
相続対策については、年間110万円までの贈与は非課税のため、息子2人に毎年220万円まで贈与可能です。10年続ければ2,200万円を無税で移転できます。田中さんの場合、69歳という年齢を考えると、早めに暦年贈与を始めるのも一考です。
また、この他にも、住宅取得等資金贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与などの非課税贈与制度もあります。ただし、要件が厳しかったり変更もあったりしますので、公的機関の窓口や専門家に相談するとよいでしょう。
大切なのは、『お金は使ってこそ価値がある』という発想の転換です。
