米国にとって中南米は「外国」ではない。アメリカの対外政策における優先度は、中国やウクライナ、中東を上回る最優先事項――いわば「第ゼロ」だ。確かに軍事侵攻だけを取り出せば国際法違反は明白だが、「国際社会には国の数だけ正義がある。この現実を認めるところから、国際法は出発している」と憲政史研究家の倉山満氏は語る。ベネズエラ侵攻が浮き彫りにする現代国際法とモンロー主義の矛盾とは(以下、倉山氏による寄稿 ※2026年1月16日時点の原稿です)。

◆米国にとって中南米は外国ではない
かねてから指摘してきた通り、米国は中南米を外国と思っていない(本誌’25年11/25・12/2合併号)。現に、米国がベネズエラに侵攻した。まず、軍事面では見事である。
外交(というより一方的な恫喝)で追い詰めつつ、その間に万全の準備を進める。諜報機関が入り込み、政権の一挙手一投足を丸裸にした。その成果か、ベネズエラ大統領官邸の一分の一セットを造って訓練したと報じられている。空母を展開、地上軍を動員して、逃がさぬ態勢をつくる。そして1月3日、中国製の防空網を突破して空爆、大統領の警護隊を鎧袖一触(がいしゅういっしょく)。火の手が上がってから5分で、特殊部隊がマドゥロ大統領夫妻を拘束した。
この一件で、「中国が台湾に攻め込む口実を与えた」などと愚論が日本に蔓延っているが、逆だろう。私が中国人なら、青ざめる。中国にとってベネズエラは子分であり、軍事支援もしてきた。事が起こる前は南米最強とも評されていた。しかし米国の前では瞬殺。平和ボケ日本人と違い、中国の指導者はリアリストなので、今頃すべてのシステムを見直しているはずだ。
ちなみに、米国がベネズエラに攻め込もうが攻め込むまいが、中国は台湾に攻め込むときは攻め込むし、やれないと思えばやらない。ただし、口実には使うだろう。現にロシアと一緒になって「米国の国際法違反」を宣伝している。
◆軍事侵攻だけ取り出せば国際法違反だが……
確かに、そこだけ取り出せば、米国の国際法違反は明白である。そこだけ取り出せば。米国のベネズエラに対する所業は、侵攻(aggression)である。侵攻とは、「挑発もされないのに、先制軍事攻撃を行うこと」である。漢語の侵略は定訳だが誤訳であり、aggressionに「奪い掠めとる」の意味合いは無い。ましてや「残虐な」のニュアンスは無い。
米国は武力行使前、「べネズエラは麻薬と犯罪者の輸出」を大義名分に掲げていた。だから自衛行動なのだと。米国は、これを「挑発」に当たると解釈しているようだが、同盟国も含めて認めている国は少ない。実際、軍事侵攻の口実にするには無理があり、外交交渉で解決すべき問題である。少なくとも、米国が交渉を尽くしたとは言い難い。最後通牒を突きつけて考える時間を与えたら、マドゥロが逃げるかもしれず、軍事行動に支障をきたすからだろうが。ついでに言うとトランプ米国大統領は、武力行使の後は「麻薬と犯罪者」を言わず、「奪われた石油を取り返す」しか言っていない。それ、略奪の宣言でしかないのだが……。

