
職場におけるセクシャルハラスメント、いわゆる「セクハラ」は労働環境や労働者に悪影響を与えます。場合によっては裁判に発展することも少なくありません。実際、2025年10月23日に行われた裁判では、40代女性に対する元同僚男性からの発言がセクハラに認定されました。職場でのセクハラに、個人と会社はどのような対策を講じるべきなのでしょうか。弁護士の森大輔氏が詳しく解説します。 ※本連載は、森大輔法律事務所が提供するコラムを一部抜粋・再編集したものです。
「〇〇ちゃん」呼びはセクハラ?約550万円の慰謝料を請求した裁判
男女雇用機会均等法において、職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)とは、
①職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
②性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
をいいます。
法第11条の2第2項の規定により、会社(事業主)は、職場におけるセクハラを行ってはならないこと、セクハラ問題に対する職場の関心と理解を深めると共に、労働者が他者に対する言動に必要な注意を払うよう努める義務があるとされています。
昨年、職場における軽い言葉遣いをセクシャル・ハラスメント(セクハラ)と認定した判決が世間の注目を集めました。
■事件の概要…40代女性が元同僚男性をセクハラで提訴
佐川急便の営業所に勤めていた40代女性が、2020年以降、年上の元同僚の男性から、職場で名前を「ちゃん付け」で呼びかけられたり、「かわいい」「体形良いよね」と言われたり、下着について言及されたりしたことで、2021年にうつ病と診断される状態となり、その後退職するにいたりました。
そのため、その女性が、職場で「〇〇ちゃん」と名前を呼ばれたこと等はセクハラだとして、年上の元同僚の男性に約550万円の慰謝料を求めて訴えを提起しました。
■判決の内容…慰謝料22万円の支払いを命じる
これに対して、東京地方裁判所は2025年10月23日、「ちゃん付け」は幼い子どもに向けたもので業務で用いる必要はないとし、たとえ男性が親しみを込めていたとしても不快感を与えた、と指摘しました。
そして、上司に類する立場(または影響力を持つ同僚)である男性による、外見や体形、下着への言及など一連の言動とあいまって「羞恥心を与える不適切な行為」で、「許容される限度を超えた違法なハラスメント(セクハラ)」に該当すると認定しました。
その結果、男性に対して、慰謝料22万円の支払いを命じる判決が出されました。
■会社の使用者責任…解決金70万円で和解
なお、この女性は佐川急便に対しても、使用者責任に基づく損害賠償請求を求めて訴えを提起しました。こちらについては、2025年2月に解決金70万円を支払うなどの内容で和解が成立しています。
あなたは大丈夫?職場での言葉遣いを再確認!
■呼び方ひとつで「セクハラ」の可能性
今回の判決によって、業務で用いる必要のない「ちゃん付け」が、相手の尊厳を傷つけセクハラと評価されうることが明らかになりました。
たとえ呼ぶ側が「親しみを込めて」「あだ名っぽく」「冗談で言っただけ」で悪意がなかったとしても、呼ばれた相手がどう感じるか、どう受け取ったかが重要なので、相手が不快に感じたり、上下関係の中で拒否できなかったりした場合には、単なる「親しみの表現だった」では済まされず、職場における適切なコミュニケーションの範囲を超えたハラスメントと評価されます。
したがって、職場においては「さん付け」「呼び捨てにしない」など、年齢、立場、性別などに関係なく敬意をもって呼び合うことを一人ひとりがあらためて意識する必要があります。
■相手のプライベート領域に踏み込まない
今回の判決は、体形など容姿に関する言及が「ちゃん付け」の呼称とセットだったことによって、許容される限度を超える違法なセクハラだったとの判断に至っています。
容姿に触れる言葉は、業務上必要なコミュニケーションではなく、相手のプライベートな領域に踏み込むもので、相手にとって不快感や羞恥心を与えることがあります。
特に今回のように、呼び方の不適切さと相手の容姿への言及が重なった場合は、セクハラと見なされる可能性が高まります。
したがって、職場においては、管理職はじめ一人ひとりが、何気ない一言でも「その言葉は仕事に必要か」「相手がどう受け止めるか」を一度立ち止まって考えて、相手の尊厳を損なうような言葉を避ける美しい言葉遣いを意識することが大切です。
