車・絵画・海外留学、親のお金「3億円」を浪費したワガママ兄。認知症の母を“打ち出の小槌”に、介護を続けた60代妹からさらに遺産をむしりとる非道…法律を悪用した遺産強奪

車・絵画・海外留学、親のお金「3億円」を浪費したワガママ兄。認知症の母を“打ち出の小槌”に、介護を続けた60代妹からさらに遺産をむしりとる非道…法律を悪用した遺産強奪

「自分の死後は、看病してくれた子にすべてを」――。その決意を記した親の遺言書があっても、残された配偶者が認知症を患えば、相続の構図は一変します。日経マネー(編)の書籍『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より、Bさんの事例とともに、認知症発覚前の「法的備え」の重要性を解説します。

母の認知症が招いた望まぬ母娘の対立

出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋 [図表1]相続関係図 出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋

母は2年前に認知症を患い介護施設で暮らす。兄は多額の生前贈与を受け海外在住。Bさんが実家の近くに住み親の世話をしてきた。開業医の父は「財産はすべてBさんに」と遺言書を残して亡くなる。

出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋 [図表2]母の厚意が認知症で「水の泡」に… 出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋

長年、開業医として地域医療に携わってきた父が亡くなった。父は数多の不動産を所有する資産家でもあった。法定相続人は80代の母と兄と58歳の女性・Bさんだ。

兄は若い頃からお金に糸目を付けずに車や絵画を購入する浪費家。その費用はすべて父に依存していた。父がこれまで兄に与えた金額は、海外留学費用も含め3億円は下らない。若い頃から海外に渡った兄は家族とほぼ没交渉。対してBさんは両親の身の回りの世話や介護も担い、その仲は良好だった。

そんな背景もあり、父はBさんにすべての遺産を相続させたいと考え、母もこれに同意していた。「これまで散々援助してきたのだから、兄も遺留分を侵害したと文句は言わないだろう」と父。そこで生前、その旨を記した公正証書遺言を作成していた。

父の死後、相続の執行人である信託銀行は、相続の開始を相続人に通知する義務がある。執行人が公正証書遺言の内容を伝えると、父の葬儀にも参列しなかった薄情な兄から「待った!」がかかった。

母の「認知症」発覚で、遺産分割協議が頓挫

「母さんは認知症じゃないか、こんな遺産分割協議は無効だ!」

実は母は数年前から入院し、Bさんが面倒を見てきた。ところが、新型コロナウイルス禍で面会に行けない間に、認知症を発症していたことが分かった。

認知症により自分の意思を伝えたり、状況を理解して物事を判断したりできない場合は、意思能力の喪失とみなされ、相続手続きなどの法律行為ができない。成年後見人を定め、遺産分割を代行してもらう必要がある。兄は自分が選んだ弁護士を母の成年後見人とし、裁判所も認めた。

成年後見人はあくまでも認知症となった母の財産を守る立場なので、母の遺留分を侵害する内容の遺言には応じることができない。つまり、父の相続において、一蓮托生だったはずの母とBさんはライバル関係になってしまったのである。

この場合は母が父から受ける相続をBさんが侵害しているとみなされ、母は遺留分(遺産の4分の1)の取り戻しを請求できる。このまま父の遺産が母に行けば、次の母の相続時には兄も相続人になる。

「父さんと母さんの気持ちはどうなるの? ずっと面倒を見てきたのは私よ!」と悲嘆に暮れるBさん。

母の「1通の手紙」は遺言書にならず、遺留分を支払うことに

そんなある日、母の部屋を掃除していたら1通の手紙が出てきた。どうやら入院前に書いた手紙のようだ。きれいな便箋に「娘はずっと私の身の回りの世話をしてくれて感謝している。私の財産はすべて娘に譲る」といった内容が手書きでしたためられていた。

「これが母さんの遺言! ちゃんと意思は示されていた」。母の気持ちに涙したBさんは兄と戦うべく弁護士に相談。母の成年後見人の弁護士と調整することになった。

しかし、母の限りなく遺言に近い手紙も、あくまで私信。公的な遺言書としては認められなかった。それでも、母の気持ちを何とか反映させたいという点で双方の弁護士は合意し、遺留分を本来の額よりかなり低くすることで合意した。

「すべてBさんに」という父の遺言書の内容からは遠いものとなったが、Bさんはその時点でできるだけのことはやったと満足したのも束の間。これが家庭裁判所で認められず、母の権利調停が成立。

その結果、Bさんは遺留分の5000万円を支払うことになってしまった。いずれ来る母の相続で兄と争う日を想像し、陰鬱な気分になっている。

あなたにおすすめ