富裕層が惜しまない「価値ある関係を維持するための支出」
信用そのものはお金では買えませんが、信用を築き、価値ある関係を維持するための支出があります。富裕層はこの支出を惜しみません。
お金だけではなく、気持ちを込めて時間やエネルギーを注ぎます。手土産やおもてなしも、そのひとつ。それは、信頼にお金を使うという、目には見えにくいけれどとても価値のある投資です。
たとえば富裕層は郊外にゲストハウスを持っています。家族そろって休暇を過ごすほか、人を招いてホームパーティーをすることもゲストハウスの主な用途です。
家族だけで使うには広すぎるリビングルームを設け、家族用とは別につくられた寝室やバスルームには上質なタオルやパジャマを備えていることも多く、「人を招く前提」で設計されていることがわかります。
ホームパーティーに招くのは、大学の恩師や同級生など古い友人、共に留学時代を過ごした戦友たち、経営者の場合は自社の従業員やビジネスパートナー、そして、海外からのお客様をもてなす場として使うことも多いようです。
なぜレストランではなくゲストハウスに招くかというと、周りにいる知らない人たちに気を遣わずに済むからです。時間にも煩わされずに済みます。
それに、別荘とはいえプライベートな空間に招き、手料理やお気に入りのケータリング、秘蔵のワインでもてなすことで、ゲストに対する親しみや信頼感、「大切な存在です」という気持ちが伝わりやすいというのもあるでしょう。もちろん、一般的な会食の場ではなかなかできないような、秘匿性の高いビジネスの話をすることも多いはずです。ひと言で言えば、ホームパーティーに招くことが、相手に対する信用・信頼の証しなのです。
以前、ある経営者のゲストハウスの壁が数メートルの高さにもわたることを批判する記事を読んだことがあります。でも、壁が高い設計やゲストハウスを所有していることは叩かないであげてほしいと思うのです。大切な人を安心して迎えるため、プライバシーを守るため、安全を確保するための見えない価値に、富裕層はお金を使っています。空間づくりや設計に込められた、もてなしの哲学に基づく「お金の使い方」として見てみると、その本質が少しずつ見えてくるのではないでしょうか。
一方で、住んでいる場所や別荘の有無など、自分のプライベートをほとんど見せない富裕層も少なくありません。あえて語らないのは、ただ控えめだからというよりも、余計な嫉妬を生まないためであり、何より自分や家族を守るためでもあります。富を見せることは、時として思わぬ誤解や敵意を招いてしまうこともあります。そのため、彼らは、あえて生活のにおいを外に出さず、情報もきちんとコントロールしています。
この「見せないという選択」は、実は、一般の人にもとても大切な視点かもしれません。たとえば、SNSでの発信内容に少し配慮すること。誰とどこに行った、いくら使った、といった投稿は楽しくても、見る人によっては違った意味に映ることがあります。
信頼を築くのは「どれだけ見せるか」ではなく、「何を見せ、何を見せないか」の選択です。「見せる」ことと「見せない」ことの情報戦略とお金の使い方は、富が長く続く富裕層が意識しているポイントです。
ワインに学ぶ富裕層の支出哲学
富裕層の支出の中で興味深いのは、ワインに対する姿勢です。ワインは一見「飲んでしまえば消えてなくなるフロー支出」に見えます(実務的には、消費した時点で費用化するため、在庫として管理しカウントしていただきます)。しかし、富裕層にとってのワインは、ただの嗜好品ではなく、ストック的な要素も含んでいます。
ある方のゲストハウスにはワインセラーが設けられ、数十年先を見越して良質なワインがストックされています。これは「飲むための消費」であると同時に、「熟成による価値の上昇」という投資の側面も持っています。実際、希少なヴィンテージワインは数年で価格が数倍になることも珍しくありません。
けれども、本質的に富裕層がワインを買う理由は、投資価値だけではありません。ワインは人と人とをつなぐ道具であり、会話を深める媒体でもあります。特別な一本を開ける瞬間には、「誰と飲むか」「どんな時間を共有するか」という意図が込められています。ワインは場の記憶を残す装置でもあるのです。
さらに、ワインへの支出は教養の側面も含んでいます。産地やブドウの品種、歴史や文化背景を知ることは、国際的な場で会話を広げる大切な教養です。スポーツやアートと同じように、ワインもまた「世界と対話するための共通言語」なのです。
このように、一見フロー的な消費に見えるワインも、富裕層にとっては「体験を深める投資」「人間関係を育てる投資」「教養を積む投資」へと姿を変えているのです。
森田 貴子
株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所
パートナー・税理士
