「法律上の責任」が引き裂いた夫婦の絆
法律上、不動産から発生した所得を申告し、税金を納める義務があるのは所有者である京子さんです。妹が勝手に得ていた利益のツケが、無申告加算税や延滞税を含めた1,500万円という巨額の請求となって京子さんにのしかかったのです。
この騒動は、京子さんの家庭をも崩壊させました。夫は冷ややかな目で、京子さんに離婚届を突きつけると同時に、こう言い放ちました。
「『家族だから』なんて言い訳で、管理もせず放置した結果がこれか。リスクを隠して家庭に持ち込んだ君を、もう信じることはできない」
結局、京子さんは追徴課税を支払うために、祖母から受け継いだ店舗付き住宅を二束三文で売却。しかし、所有者としての権利を主張しても「住む場所がなくなる」と激昂して退去を拒む妹家族との交渉は泥沼化。
最終的には、居座り続ける妹家族への立ち退き料の支払いと、税金納付期限が迫るなかでの「売り急ぎ」が重なり、一等地とは思えない安値での手放しを余儀なくされました。
手元に残ったのは、空っぽの預金通帳と、独りきりの生活でした。
「私はあの家を売って税金を払い、夫とも別れました。あのとき、妹に厳しく所有権を主張していれば、すべては防げたはずなんです。相続が終わったとき、私たちに残ったのは、血のつながりではなく、法律上の責任だけでした」
不動産相続トラブルの実態
国税庁が2024年に発表した「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」によると、相続税の実地調査1件あたりの追徴税額(加算税を含む)は平均で859万円にのぼり、調査に入った事案の84.2%で申告漏れが指摘されているという現状があります。
申告漏れ相続財産の内訳では「現金・預貯金等」が最も多いものの、今回の事例のように権利関係が複雑になりやすい「不動産」も主要な申告漏れ項目となっており、大きな税務リスクを孕んでいます。税務当局は相続税の申告から数年後、その資産が適正に収益を生み、申告されているかを事後調査することがあります。
京子さんのような、所有者と実態上の収益受領者が異なるケースでは、実質課税の原則に基づき、本人が関知していない収益であっても「真の帰属者」として納税義務を問われ、多額の無申告加算税や延滞税が課されるリスクが統計的にも裏付けられます。
また、最高裁判所の「司法統計(令和4年度)」によると、遺産分割等の家事事件のうち、親族間での「遺産の分割」を巡る紛争は年間1万件を超えて推移しており、法的な権利関係の曖昧さが引き金となるケースが後を絶ちません。
特に「代襲相続」を伴うような複雑な親族関係においては、「管理は任せる」といった善意の放置が、後に収益分配や管理責任を巡る深刻な対立へと発展し、最終的には資産の喪失や家族の離散を招く「相続の事後破綻」を引き起こしている点は、不動産相続における深刻な課題といえるでしょう。
[参考資料]
国税庁「令和5年分 相続税の申告実績の概要」
最高裁判所「司法統計(令和4年度) 家事事件編」
財務省「加算税の概要」
