
富裕層向け投資家ビザに特化して100億円以上の申請業務に携わる中で、20年、2万人以上の成功者の歩みを詳細に知る機会を得た著者の大森健史氏は、そこから見えた「シン富裕層(※)」の共通点を、閉塞感を抱く日本人、とりわけ若者に伝えるべく、本書の発刊に至った。本記事では、大森健史氏の著書『進化するシン富裕層』(日刊現代)より一部を抜粋・再編集して、シン富裕層が指摘する日本の悪循環な「価格」の考え方について解説します。(※親が裕福だったわけではなく元々は「ごく普通の人」でありながら、インターネットやスマートフォンの普及を背景とした起業、暗号資産、動画配信、情報ビジネスなどを通じて、わずか数年で一代にして巨万の富を築いた新しいタイプの富裕層)
「価格が良心的」が正義という謎
人口減少、経済の低成長、国力の低下など、「日本の未来は暗い」という悲観論が巷には溢れています。しかしそう語る賢い「有識者」と、普段私が接しているシン富裕層たちとは、まったくタイプが違います。
有識者は保守的な故にそうした悲観論になるのではないか、シン富裕層のような自由でチャレンジングな生き方や考え方がもっともっと広まれば、また違う未来になっていくのではないか、と私は思うのです。
日本は平成になってすぐにバブル崩壊を迎え、その後の30数年間、デフレの時代が長く続きました。そうしたこともあって、普通の考えをもつ人たちは「値上げは悪」「安ければ安いほどいい」と思い込んでいます。最近は少しインフレ気味になっていますが、令和の米騒動を見ると大きな変化は起きていないようです。
そうしたマインドが浸透し過ぎるあまり、日本では売り手側も「良心的価格」「値上げせず頑張ります!」などと言って、極力モノの価格を上げないように努力をしています。これが日本のおかしなところです。
価格が安くて得をした、と客が感じるということは、つまり売り手がその分損をしたり儲かっていなかったりするということです。それは皆にとって「良心的価格」とは言えません。
また安さをウリにして商売をしていると、競合相手も同じように価格を下げてくることでしょう。そうした値下げ合戦が続くと、売り手の儲けはどんどん減ります。すると売り手の企業で働いている社員たちの給与が減り、家計が苦しくなり、さらにまた世間では価格の安い商品がもてはやされていき……と、どんどん「デフレスパイラル」に陥ることになります。
物価の下落と経済の縮小が連動していくこの状態こそ、平成の「失われた30年」の正体でした。今は円安や原油価格の高騰、ロシアのウクライナ侵攻などで、さまざまな商品の値上げラッシュが続いています。売り手も、価格を据え置いていてはもうやっていけないからです。値上げに対して怒ったり嫌がったりしてはいけません。企業が適正な利益を確保でき、社員も適正な賃金を受け取ることができる価格こそが、本来の「良心的価格」であるはずなのです。
起業家のシン富裕層は自由に値付けする
シン富裕層のような今の時代の起業家たちは、価格競争に陥らないよう、基本的に新しいことや自分が好きなことを商品として販売しますが、その商品やサービスに対してはマーケットを見て適切に値付けをします。新しくて小さいマーケットでも、需要と供給を見極めて自分にとっての販売可能価格できっちりと売り、持続可能なビジネスにしていくのが、ビジネスオーナー型のシン富裕層たちなのです。
あるシン富裕層から「そんな安売りしてたら続かないでしょ? ちょっと前から流行っているSDGsって知ってるよね? 変な活動に利用されることが多いから好きではない人が多いようだけど、言っていることは正しいよ」と言われ、私は「それって環境保護ですよね?」と言いつつ後で詳しく調べてみると意外や意外、シン富裕層が教えてくれたことに通じる内容でありました。
これは2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに達成を目指す国際目標で、以下の17個の項目があります。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を達成しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
これらの目標は、経済、社会、環境の3つの側面をバランスよく発展させることを目指しており、政府、企業、市民社会など、さまざまな主体が連携して取り組むことが重要とされています。
そのシン富裕層が言いたかったのは、貧困や飢餓を無くすためには価格を下げるのではなく、競争力のある商品を作り、一定の利潤を確保し、スタッフの給与を上げることも重要な事だということだったのです。そのためには値上げは必要で、値上げをしたら売れなくなるのであれば商品力を上げればいいのだと。お客に安価で提供することも、一定の利潤を得て社員の給与を上げることも、両方とも重要だということです。
日本の顧客も30年にわたるデフレや不景気の影響で、価格に敏感すぎる消費行動が染みついてしまっているのですが、良く考えると低価格での提供はさらなるデフレとコストカットしか生みません。少しでも価値あるものに納得して高いお金を支払ったら、その会社が潤って他の会社への発注が増え、回りに回って自分たちの家族の収入増にも繋がると。
また、価格というものは、相手が高いと思えば高いし、安いと思えば安いのです。日本人は、原材料費、加工代、利益……などと積み上げ方式で価格を考えるケースが多いようですが、海外の人たちは「これはいくらなら売れるか」と、マーケットベースで価格を考えていきます。
