◆会社が全額補償しても無罪にはならない。社員の刑事責任は別物
会社が被害者に全額補償する方針を示している点は、刑事責任にどのような影響を与えるのか。「被害回復が図られている点は、量刑上、一定程度考慮される可能性はあります。しかし、それによって社員個人の刑事責任が消えることはありません」
実例として挙げるのが、ソニー生命保険の社員による不正事件だ。
「会社資金をビットコインに投資した事件では、懲役9年の実刑判決が下されました。詐欺罪の上限が懲役10年であることを考えれば、極めて重い判決です。この事案では、ビットコインの値上がりによって会社が最終的に利益を得ていたにもかかわらず、168億円という被害額と、業界への影響が重く評価されました。被害回復がされているかどうかよりも、保険業界の信用を失墜させた点が厳しく問われたのです」
◆「知らなかった」では逃げ切れない。上司・管理職も共犯の可能性
会社側は「組織的な関与はない」「手口の共有はなかった」と説明しているが、この主張は刑事責任の面でどこまで通用するのか。「管理職や上司が、不正行為を認識しながら黙認していた、あるいは便宜を図っていたと認定されれば、共犯や幇助として刑事責任を問われる可能性は十分にあります。社内チャットやメールなどに、不正を黙認するやりとりが残っていれば、直接金銭を受け取っていない管理職であっても、詐欺の共犯・幇助が成立し得ます。
もっとも、現実は簡単ではない。
「顧客とプライベートな関係を築いたうえで行われるケースが多く、詐欺をする側も“会社にバレない”よう巧妙に動きます。管理職や上司の関与を立証するハードルは高いでしょう」

