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グラフィックデザイナー・長嶋りかこさんにとって「美しいもの」とは。

グラフィックデザイナー・長嶋りかこさんにとって「美しいもの」とは。

「美しい」を見つめ直すためのヒントを探った、&Premium143号(2025年11月号)「美しい、ということ」より、グラフィックデザイナー・長嶋りかこさんの暮らしに寄り添う"美しいもの"を特別に紹介します。

息子が書いた、文字になる前の文字。息子が4 歳くらいのときに鉛筆で書いた文字を額装。「こういう字を私はもう書くことができない。これを見ていると、文字とは何か?という造形や意味の根源をもう一度、考え直すきっかけにもなります」
野焼きで焼いた陶器。これも息子の制作物で、台所に置いている。「粘土をペタペタとくっつけて形造り焼いただけなので、壊れやすく、機能はまったくないのですが、そういう用途や耐久性をまるで考えていないところもいいんです」

長嶋りかこさんにとって「美しいもの」とは。

 これはどちらも、今6歳になる息子が作ったものです。額に入っているのは、彼が4歳のときに書いた字。字を覚える前なので読めないのだけど、彼は文字として書いています。私がこれをやろうと思っても意図が見え透くものになる。大人は秩序やルールのなかで生きているので、どうしてもそれに引っ張られてしまう。これは、まだそれがインプットされていない状況から生まれてきたもので、見た瞬間、いいな、と思いました。陶器は5歳くらいのとき。私がどうやったら手数をかけずに面白い形になるかとか、コンセプトをどうしようとかあれこれ考えている間に、彼は10分くらいで10個ほど作って終了していました。無意識的に手が動いて、自由なんです。そういう姿を見ていると、こちらも解放されるというか、清々しい気持ちになります。精緻化された造形美や意図して綿密に作られた構成美とは違う、ものすごくプリミティブで、確信犯的な操作が感じられない表現。脳ではなく体が作っていて、人が作ったルールの外側にあるようなもの、それが目の前でどんどん泉のように湧き出ているんです。〝こうでなければならない〞という秩序の外側にあるものが生まれるプロセスには、既成概念と心をゆさぶられる美しさがあります。

長嶋りかこグラフィックデザイナー

武蔵野美術大学卒業。2014年にデザイン会社〈village〉を設立。グラフィックデザインを中心に多岐にわたる視覚言語デザインを手がける。

photo : Satoshi Yamaguchi edit & text : Wakako Miyake

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BEAUTIFUL THINGS / 美しい、ということ。&Premium No. 143

洗練された大人が選ぶのは、心がときめく「美しいもの」や「美しいこと」、そして自分らしい美しい生き方ではないでしょうか。いまの時代、効率や成果が大切にされる一方で、夕陽の輝きに見とれたり、花のひらく姿に心を澄ませるといった感覚が、少しだけ後回しにされているようにも感じます。けれど「美しい」と感じる心こそが、私たちの日々を本当に豊かにしてくれるのだとは思います。この一冊では、住まい、装いや日用品などのもの選び、ふるまいや言葉、そして生き方にいたるまで、Better Life の礎となる「美しい」を見つめ直すためのヒントを探ってみたいと思います。

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配信元: & Premium.jp

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