
◆なぜ工事はストップしたまま?
経緯は4年前の2022年にさかのぼる。同年11月に都市計画決定告示がなされた「新宿駅西南口地区開発計画」は、京王電鉄とJR東日本が事業主体となって進める新宿駅前の再開発事業。北街区の「京王百貨店新宿店」「ルミネ新宿 ルミネ1」を取り壊し、両社が共同で高層複合ビルを建設し、ビル内には国内外の富裕層をターゲットにする最高級ホテルも開業予定だった。甲州街道を挟んで南側の南街区のビルも取り壊し、同じく高層ビルを建設。全体で約1万6300平方メートルのエリアで、総工費約3000億円をかけて建て替え工事を行うという大規模なプロジェクトだ。ちなみに、この西南口地区の北側では「新宿駅西口地区開発計画」が進行中であり、すでに解体された小田急百貨店新宿店の跡地に商標施設やオフィスが入居する高さ約260メートルのビルが建設中で、29年度に竣工予定となっている。
広大な空き地となっているのは、西南口地区の南街区だが、なぜ工事がストップしたままになっているのか。既存ビルの解体は23年度から始まり、概ね完了しているとみられ、跡地には地上37階建ての複合ビルが建設される計画となっていた。だが、京王電鉄は25年3月に突如、南街区の工期完了時期を「2028年度(予定)」から「未定」に変更すると発表。同社は施工する建設会社が決まらないためだと説明しているが、これだけの大規模開発で3年後に竣工予定の高層ビルの建設会社が決まらないというのは異例の事態だ。
京王電鉄は取材に対し「現時点で施工候補会社と協議中で、契約にいたっていないためです」「(建設費用の予算超過額については)今後の検討により、変動が生じた場合、速やかに公表いたします」というが、いったい何が起きているのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「一般的な話として、これだけの大規模開発案件では、解体作業が始まる段階で新たな建物の施工業者が決まっていることが多い。建設会社が施主であるディベロッパー(※今回の場合は京王電鉄)との正式な請負契約締結前に、昨今の建設コスト高騰と工期中の将来的なコスト上昇を踏まえて非常に高い見積金額を提示したのか、あるいは大きな損失が発生するリスクから工事の引き受け自体を拒否した可能性が考えられます。ディベロッパーとしては、当初想定の事業費を大幅に上回るかたちで建設会社に発注をすることは難しく、高層ビルの施工能力を持つ複数のスーパーゼネコンに声をかけても、見積金額や条件で折り合える建設会社が出てこなければ、建設に着手できないということになります」(牧野氏)
◆スーパーゼネコンですら大規模な建設案件を受けられない

「これまでの業界の慣習として、工事を請け負った建設会社は、工期中に資材の値上がりや工法・スケジュールの変更などで費用の増加が発生すると、増加分を建設会社が自腹で負担して損をかぶるのが当たり前でした。『請け負け』と呼ばれるものですが、未曾有の建設コスト高騰により、体力のあるスーパーゼネコンですら、工期が長期にわたる大規模な建物の建設を受けられないと判断して『見積の提示自体を拒否する』といった動きがここ数年で顕著になってきています。また、2024年に始まった建設業での時間外労働規制適用を受けて、建設会社が作業員のノー残業や週休2日を前提とした見積金額を提示するようになり、以前と比べて工期が長くなってしまう点も、見積金額の押し上げ要因になっています」(牧野氏)
気になるのは、このまま着工ができないとなると、この新宿駅前の土地はどうなるのかという点だ。
「たとえば、暫定的に公園を造成したり、容易に取り壊しが可能なかたちで飲食の店舗などを営業させて、国内の建設費用の相場が正常な状態に戻るまで数年待ってから、新たなビルの建設に着手するという案などが考えられます。これには前例があって、昨年7月に三菱地所は、解体工事中の東京・有楽町駅前の有楽町ビルと新有楽町ビルの跡地に暫定利用として公園を開設すると発表しました。ですが、多数のテナントが入居していた都心一等地の大規模なビルを解体して、その跡地に収益を生まない公園をつくるというのは、本来であれば考えられないことです」(牧野氏)
今回の新宿駅駅前の再開発では、北街区は南街区の開発後に既存の京王百貨店を解体し、跡地に地上19建てのビルを建設して2040年代に工事が完了する計画となっているが、南街区の着工延期で計画全体に大きな狂いが生じる懸念がある。

