
人が倒れた時、問題になるのは「この人は誰か」と「この事実を誰に知らせたらいいのか(緊急連絡先など)」の2点です。これらがわからないまま亡くなってしまい、遺族にそのことが伝わらないまま共同墓地に勝手に埋葬されてしまった……そんな「まさかのケース」が実際にありました。本記事では、太田垣章子氏の著書『「最後は誰もがおひとりさま」のリスク33』(ポプラ社)より一部を抜粋・再編集して、自分が倒れてしまった際に、ちゃんと気づいてもらえるか、日頃からできる備え方について詳しく解説します。
あなたが倒れたとき、誰が気づいてくれますか?
一人暮らしの人が部屋で倒れた……実際に起きた事件
2022年、京都で起きたことです。体調不良を感じた元大学教授が、自分で救急車を呼びました。救急隊が窓ガラスを割って入室し、病院に搬送したもののお亡くなりになってしまいました。
搬送時、身分を証するものもなく、京都市は戸籍を追ったものの親族を見つけられず、火葬し共同墓地に埋葬しました。それから3ヶ月経ち、最終的に弟さん夫婦の知るところとなりました。
さて、ここからが問題です。なぜ勝手に火葬されたのでしょうか、そして代々の墓もあるのに、どうして共同墓地に埋葬されたのでしょうか。ご遺族の思いは、分かります。でもこれが備えていない者の現実だと、皆さんに知っていただきたいのです。
人が倒れた時、問題になるのは次の2点です。
1. この人は誰か
2. この事実を誰に知らせたらいいのか(緊急連絡先等)
この2点を、分かるようにしておかない限り、このような問題は増える一方です。倒れた時、自分の口でこの2点を伝えられるとは限りません。誰かが、1と2の謎を解く作業をしなければなりません。
これは誰の仕事でしょうか? 救急隊も病院も行政も、どこもかしこも少子高齢化社会の煽りで人手不足です。その中で本来の仕事ではない、この謎解き作業をしていかねばならないのです。
この亡くなった方は、生涯独身でした。そのため戸籍は亡くなったご両親の戸籍に入ったままで、結婚した弟さんの情報は載っていませんでした。次々と戸籍を遡っていけば弟さんに辿り着けるでしょう。
しかしながら当然に、時間も取得費用もかかります。そして同時に、ご遺体はどんどん腐敗が進みます。ドライアイスでも、1日1万円前後かかります。民間の安置室なら、1日3万円ほどかかることもあります。それでも腐敗は、進んでいきます。この費用、誰が払うのでしょうか。私たちの税金ですか?
最終的にどこかで見切りをつけ、行政は仕方なく墓地埋葬法第9条により火葬します。骨壺は行政で保管するか、共同墓地に埋葬されます。この費用も、誰が払うのでしょうか……。誰かを、責められますか?
しかもこの一連の流れに関して、国は指針を出していません。各行政の判断に、委ねられているのです。本来の仕事に追われる中で、慣れない身元確認作業が加わります。どこかで打ち切って火葬することを、誰が責められるでしょうか。
ご遺体はどのように保管したとしても、腐敗は進み、費用がかかるだけでなく不衛生です。場所も必要です。責められますか?
今までの日本では、親族が対応していました。ところが少子高齢化に加わり、親族関係も急速に希薄になりました。これからこのような悲しいことが起こらないように、私たちが備えていきましょう。
万が一のときのために、誰もがしておくべきこと
1.自分は誰か、2. 誰に知らせればよいか、が明確に伝わるように備える
まずは1、2をどうするか、です。家の冷蔵庫に自分の名前、緊急連絡先と続柄を貼っておきましょう。頼れる親族がいなければ、地域包括支援センターのケアマネジャー等でも構いません。そして顔写真つきの身分証明書を持っている人は、それを数枚コピーし、普段自分が持ち歩くもの数箇所に入れておきましょう。
例えば財布やスマホケース、バッグ等に入れるのも良いでしょう。もし顔写真つきの身分証明書を持っていない場合には、直近の写真をプリントアウトし、その裏に必要なことを記載しておけば、代用することはできます。
このようにしておくことで、救急隊や病院は、目の前の喋れない患者が誰なのかということを把握することができますし、連絡してほしい先も把握できます。くれぐれも写真は、直近のものにしてくださいね。若い頃の写真だと、誰か分からないということにもなりかねません(笑)。自分だと気づいてもらうことが先決なので、写真は定期的に更新するのが良いですね。
それからスマートフォンでiPhoneを持っている方は、メディカルIDという機能があります。ぜひ利用してください。Android の方は、緊急時情報という同じような機能があります。分からなければ、ショップなどで教えてもらいましょう。
昨今、詐欺事件が横行しているので、知らない番号からの電話には出ない、警察と名乗る人が訪ねてきても簡単に鍵を開けないという慎重さは必要です。ところが緊急時には、これが逆効果となってしまいます。
田舎から出てきた若者が事故に遭い、親族を捜して連絡しても、電話に出ない、ドアを開けないということで連絡がつきませんでした。ようやくご両親に若者のことを伝えられたのは、3日後。若者は、すでに亡くなった後でした。こんな悲しいことはありません。
このメディカルIDや緊急時情報という機能は、スマホのロック解除をしなくても、電源を切ろうとすると画面に出てくるものです。誰でもタップができ、緊急連絡先を登録しておくことで、『あなたの』スマホから連絡先に電話をすることができます。
ぜひスマートフォンを持っている人全ての方々が、この情報を登録しておいてほしいと思います。たったこれだけで、救急隊も病院も行政も、そして何よりもあなたが救われるはずです。
また一人暮らしの場合、家の中で倒れることも想像してみましょう。仕事をしていれば「出勤してこない」ということで、確認に来てくれるかもしれません。もしそのような環境ではなければ、誰が気づいてくれるでしょうか。
先の京都の件は、救急搬送されてから親族に知れるまで3ヶ月以上かかっています。しかも亡くなった方の友人が懸命に捜してくれたからこそ分かったことで、もしこの友人の存在がなければもっと時間がかかったでしょう。
親族と、どれくらいのペースで連絡を取り合っていますか? それが気付いてもらえるタイミングです。見守り器具をつける、定期的にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等でスタンプを送る等、気づいてもらえる方法を探しましょう。
そして何よりも繫がってほしいのが、地域包括支援センターです。これは地域で生活する高齢者の、総合相談窓口です。たとえば介護認定を受ける、ということに「自分が年寄り」だと認めるみたいで抵抗感を抱く人は多いのですが、それは違います。地域包括支援センターは、一日でも長く自立した生活をするために相談やサポートをしてくれるところです。早くから、繫がることで自立期は延ばせるはずです。
要支援1は、椅子から立ち上がった際にふらつくことがある、です。今の私だって、ふらつくことはありますから、高齢になると皆が要支援1にはなると思います。そうなれば定期的にサービスを利用することで、誰かと顔を合わすことになります。これが見守りにもなるはずです。
倒れた時に1.自分は誰で、2.誰に連絡してほしいのか、これをしっかり自身で備えましょう。そして倒れたことにすぐ気が付いてもらえる方法も備えて、万が一の時には、綺麗な間に見つけてもらえるようにしておきましょう。
太田垣 章子
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員
