◆愛を煮込む雑炊
「雑炊のときとかヤバイっすよ、マジで。あれはうますぎる。しかも、おかわり何杯でもできるんですよ。最終的に4周くらいした人が勝ちみたいな。だから、早く並ぶみたいな。お兄さん、そこは行ったほうがいいですよ」短パン小僧がそう教えてくれた。そんなに勧めるのなら明日にでも行ってみたい。いつ、開催されるのだろうか。
「えっと……」
短パン小僧が日程を思い出そうとしていると、「毎週金曜13時から!」と、間にいた70代のおじさんが即答した。
その早さは新参者である私たちとは明らかに格が違った。炊き出し界隈には、炊き出しのスケジュールをすべて丸暗記し、その時間になると体が勝手に動き出すレベルまで達している達人が何人かいるのだ。
「火曜と木曜は19時から、土日は18時から!」
おじさんはまるで「九九」を唱えるくらい、板に付いている。

「てめえ、何回言ったら、わかるんだよ」
「俺だけじゃねえよ、おまえの部屋もうるせえんだわ」
ドヤの中には3畳一間の狭い部屋が、いくつもひしめき合っている。テレビの音、ラジオの音、咳、くしゃみ、屁など、部屋から出た音は廊下に漏れ、そして各部屋に吸い込まれていく。
しかし、ドヤの中で喧嘩をしてしまえばドヤ中が騒動となり、場合によっては帳場(フロントにいる人間)に部屋から追い出されてしまう。そのため、表に出て言い合うのだ。
◆周りに大きな顔をするため他人に金を貸す人
列のどこからかやってきた60代のおじさんが、短パン小僧になにやら耳打ちしている。金でも借りに来たのだろうか。おじさんが列に戻ると、短パン小僧は私の視線に気付いていたのか、思わせぶりな話し方でこう言った。「ああいう人もいるんですよ」
「金でも貸してくれって言われたんですか?」
「いや、あの人なぜかいつも奢ってくれるんですよ。昨日は3000円くらい奢ってくれました。金も貸してくれるし、ヤバくないすか? だって、今日も朝から酒2本飲ませてもらってますから。でも、あんまりたからないであげてくださいね(笑)」
このおじさんも寿町で見かけたことがある。やはりドヤに住んでいるので、かなりの確率で生活保護を受けながら暮らしているはずだ。街で見聞きした限りでは、周りに大きな顔をするために人から金を借りておきながら、他人に金を貸している人なんかもいるようである。
とある月初めの夜、寿町を歩いていると、居酒屋から「かぐや姫」(リリース当時のグループ名は「南こうせつとかぐや姫」)の『神田川』が漏れ聞こえてきた。
しかし、街が潤う生活保護の支給日も、炊き出しは変わらず開催される。

次の日、13時に寿公園に行くと、すでに公園の中で雑炊を食べ始めている人がいた。参加者は全部で120人以上はいるだろうか。
「今日の炊き出しは塩味の雑炊です。公園内では医療相談、法律相談、生活相談もしています。どうぞ、雑炊もおかわりしてくださいね」
生活困窮者支援団体『寿地区センター』のスタッフが、拡声器を使って案内している。この団体は1983年から40年以上、活動を続けているという。

「これ、うまいですね」
隣で雑炊を食べていた60代のおじさんに話しかけると、メニューは毎週雑炊だが、味はいくつかバリエーションがあるという。
「今日の塩味もうまいけど、カレー味が人気だよ。俺もカレー味の日が一番好き」
カレー味の雑炊とは珍しい。また、雑炊を食べに来てみることにしよう。
<取材・文・撮影/國友公司>
―[ルポ路上メシ]―
【國友公司】
1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。 2018年、西成のドヤ街で生活した日々を綴った『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)でデビュー。ライターとして取材地に赴き、その地に長らく身を置く取材スタイルを好む。著書に『ルポ歌舞伎町』、『ルポ路上生活』(KADOKAWA)、『ワイルドサイド漂流記』(文藝春秋)がある。X:@onkunion

