「帰る場所」を失ったという後悔
実家は売ったものの、先祖代々の墓は地元に残したままです。お盆が近づいたある夜、母がぽつりとこぼしました。
「私、あのお墓にちゃんと入れるのかしら。家を売って、近くでお墓を守る人がいなくなっちゃった。お父さんにも申し訳なくてね……」
墓参りに行く気力も体力も衰えた母にとって、「自分の帰る場所」を失ったという後悔になっているように感じられました。
「迷惑をかけてはいけない」という思いに縛られ、息子の家庭に気を遣いながら縮こまって生きる母。小さくなっていく母の背中を見て、山村さんは自問します。
「母を救ったつもりで、母の人生を奪ってしまったのではないか」
「これで、本当によかったのか……」
「自分らしく生きる場所」づくりのために大事なのは「自立心」
老親を呼び寄せることには、確かに大きなメリットがあります。物理的な距離が近くなることで、見守りやサポートがしやすくなり、サポートをする側の子の負担も軽減されます。財産管理や手続きも行いやすく、緊急時の安心感は大きいでしょう。
一方で、デメリットも見逃せません。親が長年築いてきたコミュニティから離れることによる、生活環境と人間関係のリセット、新しい環境への順応の難しさ。それらによる生きがいや自立心の低下や、遠慮が生む孤独。金銭面や安全性だけで判断すると、こうしたリスクは見えにくくなりがちです。
同居を選ぶなら、デイサービスや地域活動などの「新しい居場所づくり」、改葬(お墓の引っ越し)などをセットで考える視点が必要です。
また、注意したいのが「親の財布」を奪ってしまうことです。管理を子が担うことと、使う自由を奪うことは別です。「管理」「所有」「使用」は分けて考える必要があります。
たとえ、生活する上でのお金の管理は主に子が担うとしても、親のお金の管理や使い道の決定権は、できる限り親に残します。あえて「食費の一部を出してもらう」「一定の生活費をもらう」など、家庭内での経済的な役割を親に持たせることで、「お世話になっている」という罪悪感を和らげ、自立心を保つ助けにもなります。
資産はあくまで名義人固有のものであり、関与するなら必ず双方の合意と意思確認が必要です。そのためには、家を売る前、同居を決める前に、「お金の役割分担」や「親自身は、どう使いたいと思っているのか」について話し合い、考えを共有しておくことが欠かせません。
