◆「研究者になろうと思えない」大学院生の声
同じく東大大学院の理系修士課程に通うBさん(20代)は、「この現実があるから、研究者になろうとは思えなかった」とこぼします。「やっぱり、結婚とか考えたら難しいでしょう。まず儲かりませんし、ポスドク問題が解決しない限りは、仮に博士課程を修了できても生活の安定が見えない。
一応、学振制度といって博士学生やポストドクター向けの支援金を受け取れる制度はあります。額もそれなりにあって、ポスドク向けなら約36万円の収入が期待できる。
ただ、もちろん枠は極わずかしかありません。通るかどうかは賭けですし、研究奨励金は給与所得の扱いになるので、きっちり税金も引かれる。翌年からは住民税もかかる。どうして税金がかかるのか、理解に苦しみますが。
実績のために研究しないといけないのに、実際には研究だけでは食っていけないので、副業しなくてはいけない。
大学もわかっているんでしょうね、最近副業規定がかなり緩くなってきて、研究に関係しないことでも許可が出るようになったんです。
でも、結局食えるかどうかはわからない。私なんかよりずっと優秀な先輩も『給与がしょっぱい』とこぼしていました。やる気が削がれていく様子が、手に取るようにわかりましたよ」(Bさん)
もともと好きだった理科数学の勉強が高じて、修士課程に入学したというBさん。このまま博士課程に進学するのは確実ですが、「博士を出たら一般就職すると決めている」と断言していました。
確かに、ここまでの能力を持つ方に「30歳半ばまで頑張って、額面30万をもらえるかどうかの道と、初年度から年収600万超えで、うまくいけば20代で1,000万を超える道と、どちらを選ぶ?」と聞いたなら、よほど強い信念がなければ後者を選ぶのでは。
◆実家が太い人しか研究者になれない国
私は、研究職にもっとお金を払うべきだと感じます。研究力が落ちれば、国の強みは鳴りを潜め、徐々に国際競争力が低下し、傾いていく。国防の文脈からも、研究費にある程度の投資は必要です。
このままでは、日本は「援助が必要ないほど実家が太い人」しか、研究者になれない国になります。
「職業選択の自由」として開かれているとしても、実質的に経済的なラインがひかれているならば、それは制限されているといって差し支えなくなってしまう。
現状では、「大学近くに実家があり、大人が一人ぶら下がったとしても十分食わせていけるほどの安定した収入で、結婚や出産などのライフステージより研究を選ぶ人」くらいしか大学院進学を考えられません。
それにもかかわらず、「大学院進学者が少ない」と「修士課程までの一貫コースを作りました!」などとんちんかんな施策をもってくる。単純に出口が魅力的でなければ、よほどの物好きか考えナシでなければ飛び込みません。
大学は金が欲しい。研究者も金が欲しい。だから目先の「2時間8万円の風俗」につられてしまうのでしょう。
ただ、今回の不祥事によって、文科省主催の「国際卓越大学」の認定はさらに遠のいたといえそうです。
「短気は損気」といいますが、これがどれほどの「損気」につながってしまうか、今後の動向から目が離せません。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)

