今回は、電車内での数分の出来事が、今も心に引っかかっているという2人のエピソードを紹介する。
◆荷物で塞がれた座席の違和感

「その中で、一部の座席だけ“結界”みたいに見えたんです」
斜め前の座席には、明らかに某夢の国の帰りと思われる女性が座っていた。首元には、有名なキャラクターを思わせる耳あてのようなものがかかっている。
問題は、女性の左隣だった。夢の国のお土産がぎっしり詰まったショップ袋が置かれ、1人分の座席を占領していたのだ。
「荷物が“人”みたいに座っていました。周りも気づいているのに、誰も何も言えませんでした」
女性は周囲の視線を気にする様子もなく、スマートフォンを操作していた。電車が駅に停車するたびに、スマートフォンをもったまま隣の荷物にもたれかかり目を閉じるという行動を繰り返していたそうだ。
「どう見ても、寝たフリでした」
発車してしばらくすると、軽く伸びをして再びスマートフォンを触りはじめる。その一連の動作が、数駅にわたって行われていたという。
◆数秒の空白に起きた攻防
やがて、女性の反対側にあたる右側の席が空いた。そこへ、仕事帰りと思われる中年男性が向かった。
「その男性は立っているのもしんどそうでしたね。“今日一日終わった”って感じでした」
男性は座るなり眠りに落ち、首が振り子のように前後に揺れはじめたそうだ。
「現実に疲れきった会社員と、夢の国帰りの若者……。その距離が、徐々に縮まっていく様子を見ていました」
すると、ついに男性の頭が女性の肩に触れたという。
「一瞬、女性の眉間がピクッと動いたのが見えました」
数回の接触のあと、女性は荷物を持ち上げた。自分と荷物の位置を入れ替えようとしたのだろうと、佐藤さんは思ったようだ。そして、ほんのコンマ数秒の出来事だった……。
「座席に生まれたわずかな空間に、近くの吊り革につかまっていた中年女性が滑り込んだんです。吸い込まれるような動きでした」
若い女性は、ショップ袋を抱えたまま中腰で固まり、結局“不服そうに”2人の間へ座り直したそうだ。
「さっきまで座席を占領していた荷物が、今度は女性の膝を圧迫している光景に、ちょっとだけスッキリしました」

