表明保証違反なのに、なぜ損害賠償請求できないのか?――「アンチ・サンドバッギング」が問題となる表明保証トラブル【M&A弁護士が解説】

表明保証違反なのに、なぜ損害賠償請求できないのか?――「アンチ・サンドバッギング」が問題となる表明保証トラブル【M&A弁護士が解説】

買主の不注意や調査不足も請求制限につながる

アンチ・サンドバッギングが問題となる場面は、買主が明確にリスクを認識していた場合に限られません。

買主が十分なデューデリジェンスを実施していなかった結果、重要な事実を十分に把握できていなかった場合であっても、売主が相応の情報提供を行っていたのであれば、そのリスクは買主に帰属すべきであると評価されることがあります。

この点について、裁判実務では「買主が表明保証違反を認識すべき状況にあった」と形式的に評価されるというよりも、当該情報状況の下でM&Aを実行した以上、その不確実性や損失の発生を買主が受容すべきであるかどうかという観点から判断が行われています。

その結果、表明保証条項違反が成立するように見える場合であっても、損害賠償請求が否定又は限定されることがあります。

アルコ事件にみる裁判所の判断枠組み

この点を理解する上で参考となるのが、いわゆるアルコ事件東京地裁判決です。アルコ事件では、M&Aの交渉過程において買主が一定の情報に接していたことを前提に、M&A後に買主から売主に対して表明保証条項違反による責任追及がなされた事案について、裁判所はM&A交渉の経緯や情報開示の状況を詳細に検討しました。

裁判所は、表明保証条項の文言を形式的に適用するのではなく、売主がどのような情報を提供し、その情報を踏まえて買主がどのような条件でM&Aを実行したのかを重視しています。その結果、当該リスクについては買主が負担すべきであると評価される重過失の場合は、表明保証条項違反による責任追及が制限されるとされました。

この判断は、買主が実際にそのリスクを織り込んでいたかどうかという主観的事情ではなく、売主が適切な情報提供を行っていた以上、その情報状況の下では買主が当該リスクを負担するのが相当であるかという、客観的な評価に基づくと思われます。

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