誰にでも起こりうる、決して他人ごとではない今回のようなケース。人ごとではないような気がしてなりません。

◆重い腰を上げて行った久々の病院
ことの始まりは、1週間ほど前から続いた原因不明の体調不良でした。何より根岸さんを震え上がらせたのは、尿の色の異常な濃さだったといいます。「とにかく体が重くて、朝起きるのが苦痛で仕方なかったんです。ネットで検索すると『肝臓疾患』や『ガン』なんて不穏な言葉が並んでいて、生きた心地がしませんでした。
意を決して内科を受診したら、結果は『過労と脱水』。先生から『しっかり休めば大丈夫』と言われたときは、本当に膝の力が抜けるほどホッとしました」
安堵した根岸さんは、処方箋を手にクリニックの向かいにある調剤薬局へ向かいました。
金曜日の午後、待合室は立錐の余地もないほど混雑していましたが、この時の彼は「あとは薬をもらって寝るだけだ」と、穏やかな気持ちで順番を待っていたそうです。
◆聖域を侵食する「自称・博識老人」
しかし、その平穏は、隣に座った80歳前後の老人の一言によって無残に打ち砕かれます。老人は、根岸さんが手に持っていた処方箋を覗き込み、驚くべきボリュームで口を開きました。「お兄さん、その薬、疲労回復目的で出されたんだろ? だけどねぇ、甘く見ちゃいけないよ。うちの兄貴が全く同じ症状でね、最初は疲れだなんて言われてたんだが、一向に良くならなくて……。
結局、精密検査をしたら膀胱がんだったんだ。お兄さんもがんじゃねえか? 残尿感とか痛みはないのかい? 身内に同じようなのがいたもんだから」
静まり返った待合室に、老人のダミ声が響き渡ります。他の患者たちが一斉に根岸さんを「同情と好奇の目」で振り返りました。
「耳を疑いましたよ。こっちは医者に大丈夫だと言われて安心しているのに、見ず知らずの他人が『がんだ』なんて縁起でもないことを大声で……。
それも、まるで自分が専門家であるかのような、自信満々の口調なんです。恥ずかしくて、顔から火が出る思いでした」

