◆プロリーグの栄養サポートで初の挫折
──卒業後は、スポーツサプリメントを扱う食品メーカーに就職されています。吉谷:当時、自分の中で思いつく「スポーツと栄養を両方できそうな場所」が、スポーツサプリメントを扱っている会社だったんです。プロテインやアミノ酸って、アスリートにとってすごく身近な存在ですし、「これをちゃんと設計したら、力になれるはず」と思って、その分野のメーカーを選びました。
──入社後は、どのようなお仕事を?
吉谷:最初は一般向けの商品を担当する部署からスタートして、スポーツの部署に移ってからはサプリメントの開発や、アスリート向けの提案が中心でした。「トレーニング前後でどんな栄養素が必要か」「どのタイミングで何を取ればいいか」を考える仕事ですね。この仕事は、やればやるほど、「サプリはあくまで補助で、ベースはやっぱり日々の食事やな」という思いが強くなっていきました。食事が整っていないところに、いくら高性能なサプリを乗せても、土台がぐらぐらの家に屋根だけ載せるようなものだな、と。
──初めて本格的にアスリートの栄養サポートを任されたのが、ラグビーチームだったとか。
吉谷:トップリーグのラグビーチームをサポートしたのが、最初の本格的な現場でした。会社としては、「食事の取り方も変えていかないとサプリの効果が出にくいよね。だったら、食事の部分も見たらええやん」と。ある日突然、「じゃあそのトップリーグのチームをお願いな」って言われて、ポンっと放り込まれた感じです(笑)。
──サポートをされて、手応えはいかがでしたか。
吉谷:当時24〜25歳で、自分より年上の選手ばかりの中に入っていったので、最初は正直ビビりましたね。栄養講習もさせてもらったんですけど、今思えば大学の発表会みたいな感じだったので、まったく面白くない……(笑)。選手が何を知りたいのかもわかっていないまま、教科書通りのことを一方的にしゃべってしまって。終わるたびに「これで本当に役に立っているんかな」と落ち込んだりもしました。
──ある意味では、挫折したようなお仕事だったと。
吉谷:そうですね。自分の中では「最後まで手応えをつかめなかった現場」という印象が強いです。そこで痛いほど思い知ったのは、「知識があるだけではサポートにならない」ということでした。選手の言葉で、選手の目線で話すことで初めて届くし、「何をどうしたら、この人は一歩変わるんやろか……」と考え続けないと意味がない。その挫折があったからこそ、後の仕事で伝え方や距離感をものすごく意識するようになりました。
◆食事は心理戦。知識よりも対話が重要
──その後、独立を経て、プロ野球界での栄養サポートを始められます。吉谷:最初は、ごく一部の選手を対象にした栄養講習からスタートしました。30〜40分の話を3日間連続でやる、というくらいの小さなところからです。そこから少しずつ寮の食事を一緒に考えたり、遠征先のメニューを調整したりと、年々できることが増えていきました。気づけば10年ほどの間に、30種類くらいの取り組みになっていましたね。
──選手と向き合う中で「食事は心理戦」という思いが生まれたそうですね。
吉谷:夜中にお菓子を食べてしまうのも、炭酸飲料をやめられないのも、ただ意志が弱いからではなくて、その人なりの理由が必ずあるんです。しんどい練習のストレスかもしれないし、寂しさかもしれないし、ただの習慣かもしれない。それを知らずに「やめてください」と言っても、絶対にやめられません。だから、「こうした方が、こんないいことがありますよ」とベネフィットを示すようにしています。
<取材・文/橋本未来 撮影/吉村竜也>
吉谷 佳代(よしたに・かよ)
パワーニュートリション代表。管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
2001年徳島大学医学部栄養学科 卒業後、食品メーカーの研究員として健康食品開発や、スポーツサプリメントの研究開発に従事。その傍ら、多くのアスリート、学生スポーツ、ジュニアへの栄養指導、食育イベントに携わる。2013年に独立。以降、ジュニアからトップアスリートまで幅広い競技の選手に対し、栄養サポートを行う。現在、プロ野球阪神タイガース、実業団女子バレーボール大阪マーヴェラスのチーム専属栄養士。
【橋本未来】
主に関西圏で広告関係やマガジン系の仕事をしながら、映像の企画・構成なども手掛ける。芸人さんやちょっと変わった経営者さんなどの話を聞くのがライフワーク Twitter:@h_mirai1987

