春の入り口を食卓に並べる世界の文化
こうした、食文化は日本だけに限りません。ギリシャではチコリやタンポポなどの野生葉菜をくたくたに茹で、オリーブオイルとレモン、塩で和えた温サラダ(ホルタ)が日常的に食されています。一方、北欧では春先のイラクサ(ネトル)や野生のスイバを、スープやお粥に少量加えて風味づけとしていただく習慣があります。

冬の終わり、春の入り口に野の植物を口にし、季節が動き始めたことを体感させるこうした食文化は、体によいから生まれたというより、季節の変化を読み取るために育まれてきたと考えるのが自然です。芽吹きや苦味といったサインを手がかりに、人は「今がどんな季節か」を体で確かめていたのです。
今、世界中で再評価される自然の学問「フェノロジー」
自然の動きと私たちの暮らしを重ね合わせる考え方の一つに「フェノロジー」という学問があります。フェノロジーとは、一言でいうと「自然をカレンダーではなく、生きものの反応で読む技術」。植物の芽の膨らみや鳥の初鳴き、昆虫の出現などを観察・記録するもので、二十四節気七十二候をデータ化したものとも言えます。

フェノロジーという言葉は、19世紀前半にベルギーの植物学者・園芸学者シャルル・モランによって提唱されました。しかしその考え方自体は、はるか以前から人々の暮らしの中に存在していたものです。
現代ではこのフェノロジーが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)において、生態系の変化を捉える重要な指標の一つとして位置づけられ、国際的にも高く評価されています。
イギリスには、18世紀から約350年にわたって、同じ場所で自然の変化を記録し続けてきた家族がいます。こうした長期の観察記録は、現在のフェノロジー研究の基礎となっているだけでなく、英国の自然保護団体Woodland Trustが運営する市民参加型プロジェクトNature’s Calendarにも受け継がれています。
それらのデータからは、
・春の訪れが早まっていること
・夏の終わりが遅れていること
といった傾向が明確に示されており、現在では気候モデルの検証にも活用されています。
