先日、OpenAIが医療分野向けにChatGPTの機能を拡張したというニュースが話題になりました。症状を入力すれば、考えられる疾患、受診の目安、さらには「医師にぶつけるべき質問リスト」まで整理してくれる。現時点ではウェイトリスト段階ですが、これが一般開放されれば、人々の生活習慣を根底から変える「医療相談のインフラ」になるのは間違いありません。
しかし、これは単なる便利機能の追加ではありません。Google、Anthropic、そしてOpenAI。テック巨頭たちが「病める巨大市場」の主導権を奪い合う、静かな、しかし熾烈な戦争の始まりです。
◆Googleの聖域に、OpenAIが「土足」で踏み込んだ
医療×AIといえば、もともとGoogleの独壇場でした。膨大な医療データの解析や画像診断など、Googleは長年にわたり「専門家のための精密な道具」を磨いてきました。研究実績も投資額も圧倒的で、医療AIの基盤技術という点では、今もなお業界の中心にいる存在です。
ところが、いま“消費者の体感”という意味で話題の中心にいるのはOpenAIです。米メディアの多くは、医療分野において、診断や研究ではなく「最初の相談先」という入口の部分で、OpenAIが存在感を強めていると伝えています。
理由はシンプルです。Googleが研究・専門用途を軸に精度を高めてきた一方で、OpenAIはChatGPTを通じて、「一般人が毎日触るスマホの中」に生成AIをいち早く入り込ませました。医療分野でも、診断そのものではなく、「不安を感じた瞬間に最初に相談する相手」というポジションを先に押さえたのです。
医療AIの価値は、もはや精度の高さだけで決まるものではありません。「どれだけ多くの人が、不安になった瞬間に、反射的にそのチャット欄を開くか」。この“入口の習慣”という点では、ChatGPTはすでに非常に有利な位置に立っています。
この動きに、Claudeを開発するAnthropicも追随しています。OpenAI、Google、Anthropic。米テック3強がほぼ同時に「医療・健康」に本腰を入れたのは、ここが「最大の囲い込みチャンス」だからです。
病気や健康は、万人が生涯関心を持ち続けるテーマ。検索頻度は桁違いで、しかも極めてセンシティブな情報です。ここで一度「こいつは頼れる」と信頼を勝ち取ることができれば、ユーザーは一生そのAIから離れません。AI企業にとって医療とは、究極のサブスクリプション・モデルになり得るのです。

◆「救世主」か「デマの温床」か。現地の反応は真っ二つ
当然、アメリカ国内の反応は二分されています。肯定派の意見は切実です。「病院に行くべきかの判断材料になる」
「医師の前でパニックにならずに済む」
一方で、否定派(特に医師グループ)からは、「AIが誤った自己判断を助長する」「医療情報をAIに渡すプライバシーリスク」といった懸念が噴出しています。
ただ、この議論の背景には、アメリカ特有の「絶望的な医療環境」があることを忘れてはいけません。日本でも体調が悪ければ検索をしますが、アメリカのそれは重みが違います。
何せ、「救急車を呼ぶだけで15万円、ただの風邪で検査を受けたら10万円請求された」なんて話がザラにある国です。保険の仕組みは複雑怪奇で、予約は数週間先。
アメリカ人にとって、病院に行くという決断は、数万円から数十万円の出費を覚悟する「ギャンブル」に近い。だからこそ、「この症状で本当に高い金を払って病院に行くべきか?」という問いに対し、無料で即答してくれるAIは、もはや救世主のような扱いなのです。

