◆AI企業が本当に欲しいのは「診断書」ではない

テック巨頭たちが狙っているのは、実は医師の仕事を奪うこと(診断や治療)ではありません。彼らが欲しいのは、ユーザーが最初にアクションを起こす「最初の判断(ゲートキープ)」の枠です。
「様子見でいいのか、今すぐ救急か」
「何科に行くべきか」
この入口を押さえれば、その後の薬の購入や、通院先の選定まで、ユーザーの行動全体に影響を与えられます。
◆「3時間待ちの3分診療」にAIが入り込む余地
想像してみてください。平日の夜、喉が痛い。明日は大事な会議。病院に行くべきか悩む……。これまでは「とりあえず寝る」か「ネット掲示板で検索」の二択でした。しかし、自分の過去の病歴や健康データを把握したAIが、「今のあなたの状況なら、この市販薬を飲んで様子を見、3日続いたら内科へ。医師にはこう伝えてください」とナビゲートしてくれたら?
多くの人が、医師に会う前にまずAIに相談するはずです。それは医師を信じていないからではなく、「病院に行く前の安心」が手軽に欲しいからです。
日本の診察では「3時間待ったのに3分で診察が終わった」ということもよくあります。その3時間をAIでゼロにできるなら、これまでAIを使うのを躊躇していた人も一気にAI派に転ぶかもしれません。
日本は高齢化が進み、医療現場はパンク寸前です。将来、「軽症はAIがさばき、本当に必要な人だけが医師にたどり着く」という役割分担は、効率化を求める現役世代から順に、自然に受け入れられていくでしょう。
「セカンドオピニオン」も重要ですが、「ゼロ番目のオピニオン」としてAIが果たす役割は計り知れないと思います。
「AIを医療に使っていいのか?」という倫理的な議論は重要です。しかし、それ以上に重要なのは「不安なとき、あなたは最初に誰を頼るか?」という直感的な選択です。
医師か、家族か、それともスマホの中のAIか。
その選択肢が、いま静かに、しかし確実に、私たちの人生の「入口」を書き換えようとしています。<文/福原たまねぎ>
【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi

