持続可能な医療体制を目指して
──新しい体制をつくる際、もともといるスタッフから反発はありませんでしたか?
私が着任してまず思ったのは「誰一人辞めてほしくない」ということでした。突如やって来た医者が既存の組織ややり方を壊していったら誰もついて来ません。なので、新しいことを取り入れる場合は、必ず話し合って決めてきました。そして、全員がついて来られるペースを心がけています。
──これまで受け入れて来なかった患者さんや、救急対応など一からの体制づくりはさぞ大変だったのでは?
大変さはありましたが、何より感動したのは、いきなり来た自分に看護師たちがついてきてくれたことです。その理由を尋ねたところ「本当は一人でも多くの海陽町の人たちを助けたかった。先生が受けてくれるなら頑張りたい」と返ってきたんです。それならば自分が全責任を負おうと思いました。
新しい取り組みはすべて、こうした現場の思いがあるから続けられています。これは海陽町に限らず、日本全国どこの地方でも同じ思いの人はいると思うんです。「縁のある地域とそこに暮らす人々を守りたい」という医療者を、学生含めて育成したいと考えています。
──医療従事者だけでなく、学生の育成まで視野に入れているのですね。
自分がいなくなっても継続できる地域づくりを目指しているためです。それには数年ではなく、20年くらいかけて取り組むべきだと考えています。こう考えるようになったのも、ある地方病院で、学生向けの教育を実施したところ、卒業後にその病院に戻ってきているという話を聞いたからです。
いま、町長とも話し医学部を目指す高校生向けの海南病院塾を検討しているほか、病院のイベントにも学生を積極的に招いています。地域に縁のある子たちが、一度外へ出たあともまた戻って、いつか一緒に働けることを夢見ています。

楽しみながら主体的に学ぶのが理想
──組織づくりや人を育てるためのマネジメントスキルは、どのように培ってきたのでしょうか?
倉敷中央病院でマネージャーを打診されたのがきっかけです。最初は「プレーヤーをやらない人間の言うことを誰が聞くんだ」と反発し、上に立つことに葛藤がありました。
ところが、組織が大きくなるにつれて誰かが指揮を取らないとメンバーがやりたいことも実現させてあげられないし、大規模なことにも挑戦できないと感じたんです。そこで、さまざまな書籍を読み最もしっくりきたのが、「プレイフルラーニング」という考え方でした。
──具体的にはどのような概念ですか?
楽しみながら主体的に学ぶという意味があります。以前、倉敷にいたときの後輩研修医から「サーフィンがしたいから医者を辞めようか考えている」との相談を受けました。私が海南病院に移るタイミングで誘ったところ、非常勤として働きに来てくれるようになりました。サーフィンができるから来ていたはずなのに、勤務から数週間後に、彼から「先生、内科の本3冊買いました」と言われたんです。
明らかにサーフィンの比重のほうが大きそうだった人が、仕事に対して前向きになるなんてと驚きました。

私生活が充実したからこそ学ぶ意欲が湧いたのかなと感じます。やらされている感があると人は萎縮してしまい、結果としてチームは小さくなってしまいます。メンバーが自ら学びたくなる現場をどう作るか、それが自分に求められている役割ですね。
──最後に、今後成し遂げたいことを教えてください。
田舎でも人が集まり、地域医療は変えられることを、全国に知ってもらいたいです。そのためには、これからも継続して地域を知り、つながり、志を持った医療者の育成に取り組んでいきます。
参考
*1厚生労働省|新たな地域医療構想の現時点の検討状況について(報告)

