「休日の電話に出ないのは当然」な若手と「責任が重くなり休めない」上司…「つながらない権利」で分断される職場のリアル

「休日の電話に出ないのは当然」な若手と「責任が重くなり休めない」上司…「つながらない権利」で分断される職場のリアル

「休日の電話に出ないのは、当然でしょう」

そう言い切る若手社員がいる一方で、「それなら、誰が代わりに動くのか」と眉をひそめる上司もいる。業務時間外の連絡を拒否できる「つながらない権利」をめぐる議論を背景に、労働基準法改正も審議されていた。

若手にとっては“守られる制度”。一方、上の立場に立つ人間にとっては“責任が一段と重くなる制度”。この小さな温度差が、職場に静かな分断を生み始めている。

◆「出ないと後が面倒」若手が学んだ“電話に出る職場”

中村さんにとって、電話に出るかどうかは「選択」ではなかった。出なければ評価が下がる。出れば休みが消える。その二択しかなかった。関東近郊の鉄道会社で車掌として働く中村正憲さん(仮名・20代後半)は運転士だった新入社員時代、時間帯を問わない職場からの着信に悩まされていた。

「例えば朝5時からの早番勤務で病欠が出ると、4時半頃に職場から電話がかかってくるんです。『出勤時間を過ぎたか』と思って慌てて出ると、急な呼び出しであることはザラ。特に電車は運転士がいないと動かないので、休日だろうが『何をおいても出てこい』という無言の圧がありました」

就寝の最中に連絡が入ってくることに、抵抗感はなかったのか。

「もちろん嫌でしたし、『こんな時間に電話してくるなよ』と思っていましたよ。ただ自分の働いていた会社は体質が古く、上司への返答は基本的に『ハイ』か『イエス』しかない。電話に出ないと次に出勤した際に呼び出され『ちょっとは協力したら?』などと嫌味も言われる。後々の面倒を避けたいという気持ちから、結局は出社してしまうことが多かったです」

業務時間外に職場から急な呼び出しがあった場合、中村さんのように立場上「NO」が言いにくい若手社員は多い。

◆「出なくていい」制度が生んだ、もう一つの問い

勤務から解放され、ようやく眠りについたところで「会社に来い」と連絡が入れば、多くの人はしかめ面になるだろう(写真:AdobeStock)
こうした社員を保護するねらいで出てきたのが、業務時間外の連絡を拒否できる「つながらない権利」だ。

だが現場では、制度の是非とは別に、「その間、仕事は誰が引き受けるのか」というもう一つの問いが浮かび上がっている。

「発信者にとっては重要な内容でも、『すぐに返事をよこせ』と圧をかけ、無視すれば詰めるのは典型的なパワーハラスメントです。弱い立場にある労働者を保護するため、メールやチャットも含む『急な呼び出し』を拒否できるようにするというのが、『つながらない権利』の基本的な発想です」

社会保険労務士の小野純さんはこう説明する。「つながらない権利」が注目されるようになったのは’20年代前半、コロナ禍でテレワーク(在宅勤務)が国内に普及したことがきっかけだった。

「在宅勤務はスマホやPCを通じ、絶えず仕事の連絡が入ってくる。メンタルヘルスの不調を訴える社員が増えたことを背景に、労働者・使用者(会社)・識者で構成される労働政策審議会(労政審)で法制化に向けた審議がなされ、’26年の労働基準法改正に向けた議論の中で『つながらない権利』のガイドライン策定が検討されるようになりました」(小野さん)

「つながらない権利」は、業務時間外の連絡を拒否できる制度として若手社員から期待を集めている。しかし、業種・業態によって一律の適用は難しいとの声も根強く、線引きを巡る議論が続いている。

「患者の容態変化に左右されやすい医療・介護業界や、事件事故・トラブルがあった場合に呼び出しが発生しやすいマスコミ、IT、鉄道などの業界は今後、あらかじめ法律の対象外とするか、一定のガイドラインにもとづいて『労使間協定』を結ぶ方向となる可能性が高いです。ただし、会社側が『緊急』と思えば連絡が入れられる状況では、使用者にとって都合のいい運用となりかねないことは心得ておくべきでしょう」


配信元: 日刊SPA!

提供元

プロフィール画像

日刊SPA!

日刊SPA!は、扶桑社から発行する週刊誌「週刊SPA!」が運営するニュースサイトです。雑誌との連動はもちろん、Webオリジナルの記事を毎日配信中です。ビジネスマンが気になる情報を網羅!エンタメ・ライフ・仕事・恋愛・お金・カーライフ…。ビジネスタイム、プライベートタイムで話したくなる話題が充実!

あなたにおすすめ