「休日の電話に出ないのは当然」な若手と「責任が重くなり休めない」上司…「つながらない権利」で分断される職場のリアル

「休日の電話に出ないのは当然」な若手と「責任が重くなり休めない」上司…「つながらない権利」で分断される職場のリアル

◆「つながらない権利」の導入で、管理職になりたい若手がさらに減る?

江島さんの会社で、毎朝チャットツール「slack」に流している「前日の労働時間速報」。業務時間外も含めて労働時間が長い社員は、泣き顔マークで「危険度」を知らせている
現在は在宅勤務の社員も多いため、会社として労働時間の把握に努めているが、労働時間の長い社員を呼び出して追い詰めると「転職してしまうのではないか」と不安もある。そこで現在は業務時間外のやり取りも含む前日の労働時間をアプリが自動集計し、朝一番に社内用チャットツールに流す方法を取っている。

「月あたりの労働時間が長い社員は、泣き顔つきの絵文字で警告を行っています。自分の労働時間が人目に曝されている緊張感もあってか、このやり方を取り入れてからは会社全体で労働時間が減ってきました」

「つながらない権利」について江島さんが懸念していることがある。固定報酬制の管理職に昇進すれば、「残業」という概念はなくなり、出社義務や労働時間が今より増えるのは避けられない。たとえ休日に働いたとしても「つながらない権利」を根拠に主張することが難しくなってしまうため、「管理職になりたがる若手は、今よりさらに減ってしまうのではないか」と考えている。

「私自身は、土日に働くことで少しでも社員が楽できるなら何でもやろうと思っています。でも今の若手に今以上の責任を与えると壊れてしまいそうで、下手には任せられないですね」(江島さん)

◆責任は上に集まり「休めない」

若手が管理職を避ける理由は、価値観の変化だけではない。制度が変わりつつある今もなお、「結局、責任は上に集まり休めない」という現実が可視化されているからだ。

パーソル総合研究所があらゆる雇用形態・業職種を対象に実施する調査(’25年度版)によれば、今後のキャリアに関して「現在の会社で管理職になりたい」と回答した割合は16.7%と、過去8年分の調査で過去最低の割合だった。冒頭で紹介した鉄道会社社員の中村さんは、現場の監督職も経験したことがあるといい、その立場からこう話す。

「もし若手社員が『つながらない権利』を根拠に急な呼び出しを拒否すれば、その分の尻拭いをするのは現場の監督職、すなわち中間管理職です。休日出勤する管理職の姿を横目に『やっぱり管理職になりたくない』と考える若手社員は、さらに増えるのではないでしょうか」

悪循環を防ぐために大事なのは、日頃からの意思疎通だと話す。

「私自身、業務時間外に呼び出しを受けるのは嫌ですが、頼まれ方一つで気持ちが変わることもある。最終的には、普段からコミュニケーションが取れているかどうかがものを言うと思っています」

「つながらない権利」は、若手を守る制度だが同時に、“つながらなかった分”の仕事がどこへ行くのかという問題は、まだ解かれていない。

「休みの日くらい、出なくていい」という若手と「その間、現場は止められない」と思う上司ーーこのすれ違いが埋まらない限り、制度が整っても、職場の分断は静かに広がっていく。

小野純(おの・じゅん)
2003年開業。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「労務相談」等の業務に従事。顧問先のハラスメント研修、法人会等の講演活動を展開。雇用クリーンプランナー(SA社)顧問としてYoutube活動、社労士向け研修用DVD(ブレイン社)等も展開中。

<取材・文・撮影/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
配信元: 日刊SPA!

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