嘘だろ…退職代行経由〈1日で退職〉に唖然。「入社してやった」「働いてやっている」空前の売り手市場で起きている“静かな異変”【転職のプロが解説】

嘘だろ…退職代行経由〈1日で退職〉に唖然。「入社してやった」「働いてやっている」空前の売り手市場で起きている“静かな異変”【転職のプロが解説】

長期化する売り手市場のなかで、採用現場では若者の“立ち位置”が大きく変わりつつあります。「入社させてもらった」から「入社してやった」へ――。この意識の変化は、企業と個人の関係性そのものを揺さぶり始めています。本記事では、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)の先駆者、東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏が、採用市場の最前線から見える変化の正体を解説します。

「入社させてもらった」から「入社してやった」へ…変わりつつある若者の意識の変化

長期にわたる空前の売り手市場となっている採用の現場では、「人不足」や「人不足倒産」などのキーワードが飛び交い続けています。

振り返れば、昭和30年以降の高度経済成長期に、地方からの集団就職列車が続々と上野駅に到着。いわゆる「金のたまご」と呼ばれる若年労働力が重宝された時代がありました。その頃も「人不足」というキーワードが飛び交っていましたが、現在の日本はすでに成熟社会となり、人口構造そのものが変化してきています。

私は1980年生まれで、2026年時点の今は40代後半ですが、この世代は、大学卒業時に就職氷河期の最も厳しい局面を経験しました。同様に、就職や転職に苦労した記憶を持つ人も多いでしょう。そして、人手不足と人余りが交互に訪れる……歴史は繰り返されてきました。

こうした流れを踏まえたうえで、改めて注目したいのが、2025年に出生数が66万人まで落ち込んだという事実です。いわゆる純日本企業、いわゆる国内資本を中心に成り立つ企業においては、幹部人材への外国人登用も簡単ではありません。そうした結果、年々数の減る優秀な若手人材を巡る争奪戦が激化し、売り手市場の構造が景気に左右されることなく固定化しつつあります。

最近、企業経営者から増えている相談が、「採用したが、すぐに辞めてしまった」というものです。中には、入社初日に退職するケースもあるそうです。1日経過した後に退職代行会社から連絡が入り、唖然とした――。こうした相談が、明らかに増えているのです。

とはいえ、若い世代に話を聞くと、「入社させていただき、多くの学びや経験を得た」「結果を出し、企業に貢献できた」「その結果、自分の処遇も改善された」「今後はWin-Winの関係を築き、企業や社会に貢献していきたい」といった、きわめて真っ当な声も多く聞かれました。

これらが「立派な意見か」といえば、そうとも言えません。本来はごく当たり前の考え方です。しかし、売り手市場における力関係が極端に偏ることで、意識そのものが変化しているようにも見えます。すなわち、「入社してやった」という意識が、一部では自然なものとして受け止められ始めているのです。SNSや口コミサイトの若者同士のやり取りを見ても、悪意はないのかもしれませんが、こうした言葉が以前より目立つようになっています。

良いオファーがあれば、入社後でも移ってしまう

本来、入社とは大きな意思決定であり、一定の覚悟をもって門をくぐるものでした。転職活動の緊張感から解放され、労使双方が新たな関係性を築いていく――それが一般的なスタートでした。

しかし、近年では、内定受諾後も就職活動を継続するというケースが増えています。本来、内定は1社にしか承諾できないものですが、売り手市場では、入社後や試用期間中であっても、本命企業からより良いオファーがあれば移ってしまう。こうした行動が、以前より珍しくなくなっています。

社会人経験の長い世代からすれば、入社してすぐに辞める行動は理解しがたいものかもしれません。試用期間であろうと保険手続きが行われます。1日だけの勤務でも、職歴としてカウントされてしまう可能性があるのです。転職歴が増えることが必ずしもプラスにならない以上、本来、会社選びは慎重に行う必要があります。

例えるなら、婚姻関係に近い側面もあります。結婚すれば婚姻届を提出し、その履歴は戸籍に残ります。転職も同様に、回数が増えれば本人にとって心理的な負担、後ろめたさにつながることもあるでしょう。

ですが、この売り手市場が続く限りは、「転職回数がある程度増えても、恐れることはない」という意識は今後も強まっていくでしょう。労働者の権利が、さまざまな面で経営側を上回り始めていることの象徴ともいえます。賃金交渉や有給取得などの面で、さらに影響が広がっていく可能性があります。

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