日本の富裕層は何に投資している?〈資産10億円超〉経営者の事例から紐解く「リアルな投資戦略」【現役プライベートバンカーが解説】

日本の富裕層は何に投資している?〈資産10億円超〉経営者の事例から紐解く「リアルな投資戦略」【現役プライベートバンカーが解説】

プライベートバンクとは、富裕層向けの銀行サービスのこと。資産額には最低基準があり、日本のプライベートバンクでは1億円以上が目安。フルスペックのサービスを受けるなら5億円は必要とも言われています。そんなプライベートバンクを利用している富裕層は、どのような投資戦略やポートフォリオで資産を運用しているのでしょうか。本記事では、濵島成士郎氏の著書『現役プライベートバンカーがこっそり教える億万長者の資産運用』(すばる舎)から一部を抜粋・編集し、富裕層の投資戦略をご紹介します。

富裕層の資産運用とは?2人の事例から紐解く

純粋なプライベートバンクや、一般金融機関のプライベートバンキング部門と取引をしている富裕層は、どのような投資戦略やポートフォリオを有しているのか? 彼らのポートフォリオの中身が気になる人も多いでしょう。

ここでは、私が実際にかかわった富裕層投資家の事例を交えながら、一般の投資家との違いを確認しつつ、富裕層の合理的な投資戦略を紐解いていきます。なお、事例は実話をもとに構成していますが、プライバシーや守秘義務に配慮して設定を一部変更しています。

ケーススタディ(1)資産10億円・田中正さんの場合

まずは資産10億円の富裕層、田中正さん(仮名)の例をご紹介しましょう。正さんは、父親が創業した家具製造販売会社の2代目経営者で、現在45歳です。大学を卒業して一般の事業会社で修業を積んだあと、早くから先代の後継者として家業に携わってきました。

先代は70歳を迎えたのを機に会長へ退きます。正さんは、41歳のときに代表取締役に就きました。昔からの取引先ともしっかりとした関係を築き、事業は堅調そのものです。

個人資産10億円の内訳は、約4億円が自社株、約1億円は自宅マンションです。それ以外はほぼ預金でした。投資性資産は、メインバンクである地銀の担当者から勧められた投資信託を付き合いで購入したり、付き合いのある証券会社に勧められた債券を少し買ったりしたことがある程度でした。

しかし、日本でも物価が上昇し始め、2%を超えるインフレ率が定着し始めたことから、「自己資産のうちの自由に動かせる5億円を運用し、いかに資産を増やしていくか」を真剣に考えるようになったそうです。

そんなある日、参加していた食事会で、共通の知人から独立系プライベートバンカーとして紹介していただきました。その後、正さんとは何度か食事をご一緒し、さまざまな話をするなかでご相談があり、正式に資産運用のお手伝いをすることとなりました。

正さんの現在のポートフォリオを覗いてみましょう。

先述のとおり、10億円のうち自社株と自宅マンションで5億円です。残りの5億円は株式、債券、オルタナティブ資産に分散投資しています。そのアセットアロケーション(資産配分)は、ざっくり株式3億円、債券1億円、オルタナティブ1億円です。キャッシュは数千万円程度を確保しています。

さらに詳しく見ると、株式の3億円は日本株と米国株、加えてインド株と中国株を投資信託や個別株の形で運用しています。債券は十分な利回りが享受できる米国債、オルタナティブは金(ゴールド)と未公開株式、それに加えて暗号資産となっています。キャッシュは、何かあったときの生活防衛資金としての性格もありますが、株式の暴落局面等、チャンスが来たときの待機資金としての性格が強いです。

現在の正さんは運用資産の約6割を株式にあて、相応のリスクをとった運用となっています。年齢がまだ45歳と若いことや、自身の経営する会社からの役員報酬が潤沢にあることから、ある程度リスクをとっても増やしていきたい、との本人の希望に沿った運用になっています。今後はレバレッジ(借入)を利かせての不動産投資も検討していく予定です。

ケーススタディ(2)IT企業創設者・鈴木康介さんの場合

次に、鈴木康介さん(仮名)の例を見てみましょう。康介さんは現在55歳、とあるIT企業の創業者です。30代前半に、小さな貸オフィスで数名のチームとともに事業をスタートさせました。日夜、事業経営に没頭し、会社は順調に成長。10年ほど前に上場も果たしています。

康介さんは上場後も多忙な日々を送っていましたが、時価総額100億円に達した会社の株価を見ていると、自分の資産の大半が自社株に偏っていることへの不安が頭をよぎるようになったそうです。発行済株式総数の過半を持つ自社株が自己資産の中心であり、もし会社の株価が大きく下落すれば、個人の資産も一瞬で大きく目減りしてしまいます。

そんな話を仲間うちでしていたことから、弊社のクライアントである某上場企業のオーナーを通じて紹介を受けました。その後、3回の面談を行い、今後の投資戦略を策定していきました。

ちなみに初回の面談では、康介さんの人となりや家族構成、資産の状況、リスク許容度などを把握することを目指しました。康介さんにふさわしい資産運用を助言するには、何はなくとも「顧客のことをよく知る」ことが大切だからです。

2回目の面談では、収集した情報をもとに策定した投資戦略と、康介さんの目指す資産運用のゴールをすり合わせました。資産運用のゴールとは、「なんのために資産運用するのか?」を明確にしたものです。目指すべき方向性の違いによって、当然、投資戦略も変わってきます。

3回目には、まず投資戦略のグランドプランをいくつか提案。ディスカッションで細部を確認し、決定事項を盛り込んだ投資戦略を策定して、具体的なポートフォリオを提示しました。

その後、必要な準備と手続きを経て、正式に資産運用のお手伝いをスタートすることになりました。リスク管理の重要性を理解していた康介さんは、オルタナティブ投資や債券投資に目を向けることにしました。自社株以外の多様な資産クラスへ投資することで、リスクの分散を図ったのです。

ただし、手持ちのキャッシュはさほどなかったため、資金調達が課題になりました。もちろん自社株を売却すれば多額のキャッシュを簡単に手にできますが、上場企業のオーナーであるがゆえに、自社株の売却ができるタイミングは限られます。市場関係者や取引先などから、いらぬ疑念を持たれても困ります。

そこで、証券担保ローンを活用することにしました。証券担保ローンを使えば、自社株を保有したまま担保にして資金を調達できます。15億円を調達し、そのうちの約6割を債券に投資しました。米国債を中心に投資し、年利4%程度のキャッシュフローを獲得することで、証券担保ローンの借入金利を賄いつつ、資産全体の土台を支える役割を期待してのことです。

残りの約4割の資金は、不動産投資と株式、オルタナティブ資産に分散投資しました。不動産投資については都心のタワーマンションに加え、海外の物件にも投資予定です。もちろん資金の有効活用のため、物件自体を担保にした借入金も活用します。株式については、海外も含めてベンチマークしたい企業の株式や、時代の流れを把握するための個別企業を選定しています。

オルタナティブ投資については、プライベートエクイティが中心です。康介さんにはかつての駆け出しの頃、資金的に大変苦労した経験があったことから、若い起業家を資金面から応援することにしたそうです。あるベンチャーコミュニティのイベントで、斬新なアイデアと熱い情熱を持っている若手起業家と出会い、個人投資家(エンジェル)として最初の出資を決めました。それを皮切りに、有望なスタートアップへの投資を何件か実行しています。

また世界的な未上場企業への投資や音楽著作権、インフラファンドといった、自社株や債券、不動産とも異なるアセットクラスへも分散して投資しています。

資産100万ドル以上の富裕層の平均的な資産配分とは?

さて、いかがでしょうか? この2人の富裕層の資産運用、ずいぶん違いますよね。ひと口に富裕層と言っても、その資産規模や本人の希望、目指すべきゴールの違いなどによって、最適な投資戦略は異なってきます。

このうち資産規模に着目すると、ある調査によれば資産100万ドル(約1億5000万円)以上の富裕層(ハイネット・ワース)の平均的な資産配分は、株式50%、債券20%、オルタナティブ資産25%、現金5%程度だとされています。

一方で3000万ドル(約45億円)以上の資産を持つ超・富裕層(ウルトラ・ハイネット・ワース)では、資産規模が大きくなるほどに、伝統的資産である株式や債券よりも、プライベートエクイティやヘッジファンド、不動産、コモディティといったオルタナティブ投資の割合が高まる傾向があるそうです。この資料では、株式20%、債券15%、オルタナティブ資産60%、現金5%というケースが報告されていました。

濵島成士郎
シニア・プライベートバンカー

株式会社WealthLead 代表取締役
 

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