「俺をもう解放してくれ」定年直前の夫に、離婚を言い渡された60歳専業主婦。1億円のタワマンから築40年アパートへ…震える手で履歴書を書く〈孤独な夜〉【FPが解説】

「俺をもう解放してくれ」定年直前の夫に、離婚を言い渡された60歳専業主婦。1億円のタワマンから築40年アパートへ…震える手で履歴書を書く〈孤独な夜〉【FPが解説】

高額な自宅に住んでいる夫婦ほど、離婚時のリスクを見誤りがちです。「いざとなれば家を売ってわければいい」と考えていても、その家が「いつ、誰が買ったものか」によって、受け取れる金額は大きく変わります。本記事ではFPオフィスツクル代表の内田英子氏が、Aさんの事例とともに、離婚時の財産分与の注意点について解説します。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。個別事例の具体的な取り扱いは、税理士・弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。

定年目前の夫から、突然の離婚通告

都内のタワーマンション。20年前に夫が5,500万円で購入した住まいは、いまや1億円で売れるとも囁かれていました。Aさん(60歳/専業主婦)は、そんな家に住めていることをとても誇らしく思い、「この家がある限り、生活は安泰」そう信じていました。しかし、その安心はある日突然、夫の一言で崩れ落ちることに。

「俺をもう解放してくれ。離婚してほしい」

夫のBさんは63歳。定年退職を目前にした時期でした。

話し合えないまま積み上がった「家計の疲労」

AさんとBさんが結婚したのは約10年前のこと。夫のBさんは堅実で温厚な性格。結婚前、すでに現在住んでいるタワマンを保有しており、金融資産も1,000万円ほど蓄えていました。自身の老後設計も現実的にシミュレーションしているタイプでした。

結婚当初こそ仲睦まじかった2人ですが、時間の経過とともに「お金の使い方」に対する感覚のズレが少しずつ表面化していきました。

Aさんの支出は、本人にとっては“Bさんとの新しい生活にふさわしい出費”でした。再婚という環境の変化もあり、交際費や身だしなみ、趣味の出費が特に増えた時期もあったといいます。Aさんにとっては特別な浪費ではありませんでしたが、Bさんにとっては違って映っていたようです。

Bさんは「定年後に収入が減る」ことを強く意識しており、家計を引き締めながら貯蓄を積み上げたいと考えていたのです。しかし、Aさんとその危機感を共有する機会を持てないまま、時間は過ぎていきました。

Bさんは衝突を避けるため、細かい不満を飲み込みながらやりくりを続けていました。しかし定年が近づくにつれ、「このままでは老後がもたない」という焦りが限界に達したのです。

物価上昇の影響で生活費が膨らむ一方、収入減のタイミングは刻一刻と迫ってくる。積み重なった“家計の疲労”が、Bさんに「今後の生活を立て直したい」と決意させ、離婚を切り出す引き金になりました。

財産分与は1,200万円…夫婦の資産額と「わけるお金」の残酷な差

夫の冷めた態度に離婚に同意したAさん。離婚の話を進めるなかで、Aさんが最もショックを受けたのは、財産分与の現実でした。

「時価1億円前後の家があるのに、なぜ1,200万円なの?」

Aさんの頭の中では、「2人で住んでいる家なのだから、半分くらいは私のものになるのでしょう」という期待がありました。しかし、いまの時価が大きくみえても、離婚で「その半分」がそのまま動くとは限りません。誤解が起きやすいのですが、離婚時に整理されるのは、原則として夫婦が婚姻中に協力して築いた財産に限られます。

一方で、婚姻前から持っていた財産(いわゆる特有財産)は、基本的に分与の対象になりにくいのです。今回のタワマンは、Bさんが婚姻前に購入したものです。個別の状況によって異なりますが、少なくとも「家の価値が高い=半分もらえる」とは直結しません。 

さらに、もし住宅ローンが残っていれば、仮に売却するにしても、

・ローン残債

・仲介手数料など売却コスト

・税金(譲渡所得が出る場合)

が差し引かれ、手元に残る金額は目減りします。

そして、仮に婚姻期間中に住宅ローン返済やリフォーム等の“共有の貢献”があったとしても、争点になるのは「時価」ではなく、婚姻期間中に増えた分(あるいは共有財産として認められる部分)です。

離婚前には、単に世帯の資産規模ではなく、“2人でわける資産ベース”でみる必要があります。

※財産分与の結論は個別事情で変わります(名義、取得時期、返済状況、別居の有無等)。法的判断は弁護士等への確認が前提です。

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