
残業は少なく、有給も取りやすい。福利厚生も充実しているのに、なぜか若手が定着しないし、業績も伸び悩んでいる……。そんな「ホワイトなのに活気がない職場」が増えています。実はデータを見ると、単に「働きやすいだけ」の企業よりも、多少ハードでも「働きがい」がある企業の方が、売上高増加率やPBR(株価純資産倍率)が高い傾向にあります。 本記事では、上林周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)より、ブラックでもなく、ゆるいホワイトでもない、社員が主体的に働ける職場の作り方を解説します。
働きやすさが低くても、働きがいが高い企業のほうが業績が上がる
心を動かす共感型マネジメントのゴールは、「推せる職場」をつくること(※)。
※推しの心理と仕事における共感は、根本の部分で共通しており、著者は、心を動かすリーダーによって共感でつながったハイエンゲージメントな職場を、「推せる職場」と表現しています。「推せる職場」は、メンバーの主体性を引き出すだけでなく、企業に確かなメリットをもたらします。簡単に整理すると「推せる職場」は働きやすさと、推し活のようなやりがい、つまり働きがいが両立した職場です。この働きがいが、実際に企業の業績に連動しているのです。
■働きやすさ:柔軟な勤務形態、福利厚生、ワークライフバランスの配慮など、従業員が安心して快適に働ける外的な環境。
■ 働きがい:働いて得られる手応え、成長実感、自己効力感などの内的な主観。
たとえば日本経済新聞社では、働きやすさだけの企業よりも、働きやすさと働きがいが両立した企業(「プラチナ企業」と呼ばれています)のほうが、売上高増加率や株価純資産倍率(PBR)が高い傾向にあると報告されています。興味深いのは、「働きやすさ」と「働きがい」のどちらが業績に効いているのか、という視点です。データを比較すると、働きやすさは高いが働きがいが低い「ホワイト企業」よりも、たとえ働きやすさが低くても働きがいが高い企業のほうが、売上高増加率やPBRは上回るというのです。
このように、「推せる職場」の実現は、事業成長へのパワーになります。ただ注意しないといけないのは、やりがいを搾取するブラックな職場になってしまってはいけない、ということです。メンバーにとっての仕事のやりがい、働きがいの中には、職場への影響力のほかに自己成長も含まれます。特に若い世代ほど、自分の力で社会を生き抜いていかねばならない危機感を持っているので、成長機会のない職場は「優しすぎる」「ホワイトすぎる」と感じて離職のきっかけになるくらいです。職場がぬるすぎると、自分が労力をかけているという「投資」の実感も持ちにくくなります。
[図表1]推せる職場の位置付け 出所:『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)
ならば『巨人の星』の星一徹のような、『タイガーマスク』の虎の穴のような、スパルタでストイックな環境がよい
のかといえば、それは昭和なブラック企業です。人によっては、いくらか理不尽な目にあってきたとしても「あの過去があったから今がある」とポジティブ転換できます。事実、そういう面はあると私も思います。ただこれは自分の経験だからこそ、そう言えるわけで、同じ価値観を他人から押し付けられても理解できるわけではありません。
特にZ世代以降の若い人たちは、職場を選べる環境に生きていて、自分で選び取ることに価値を感じます。スパルタで
ストイックな環境であろうと、ぬるま湯のような優しい環境であろうと、主体的に参加していることが大事なのです。世代間ギャップとは、価値観のギャップです。簡単に埋めることなどできません。だからこそ本書で繰り返し述べてきた、小さな共感の積み重ねが必要です。極端なホワイトでもブラックでもなく、まず職場の人間関係の中で共感をつくること。価値観の違いも認め合うこと。その先に、メンバーの望む成長とは何かが見えてきます。
[図表2]二律背反を乗り越え、「推せる職場」にする 出所:『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)
メンバーの心が離れる職場の共通点
では具体的にどうやって「推せる職場」をつくっていくのか? 逆にメンバーのやりがいも主体性もどんどん奪っていく、ダメな職場に共通する特徴を解説します。もし思い当たることがあったら、それをやめるところから始めてみてください。
意見やアイデアが反映されない「やらされ感」
目安箱だけ置いておいて、中身は捨ててしまう。そんな職場があります。ある会社では、全社で大々的にグループ研修を行い、「新規商品・サービス」のアイデアを課題として提出させました。なんでもいい、思い付きでも構わない、とハードルを下げて、積極的な参加を促す目的だったようです。
狙いは奏功して様々な意見とアイデアが寄せられました。問題はここからです。出されたアイデアを上層部だけの会議で検討し、「これは無理」「あれは意味ない」と選別が始まります。練りこまれた企画ではないので、すぐに形にできるものはありませんでした。結局、具体的には何も起こらず、いつの間にか話題そのものがどこかへ行ってしまいました。
上層部が真剣に議論したことは間違いありません。しかしアイデアを出してくれた社員への共感がゼロです。結局、自分たちの考えは無視される。ならば最初から上の人だけで決めればよい。そんな社員の“やらされ感”を放置しています。理屈や正論で答えを出したとしても、部下の感情を置き去りにしていては主体性が失われ、仕事が他人事になっていきます。
上林 周平
株式会社NEWONE
代表取締役
