
現代では、高齢の親が地方で暮らし、子どもは遠方で生活している家庭も珍しくありません。子どもとしては、「なにかあってもすぐに気づけないのでは」と不安を抱くもの。こうしたなか、見守りカメラや防犯機能付き電話などを活用して心配を軽減する手段が増えてきました。しかし実際には、親の抵抗感など、想像以上に高いハードルが立ちはだかるケースも……。本稿では、84歳の母と娘の事例とともに、親子双方が老後の安心を守るための対策について、ファイナンシャルトレーナーFP事務所の森逸行氏が解説します。
離れて暮らす母を心配し、娘が提案した「見守りカメラ」
「最近、ちょっと転びやすくなってきてね。でも大丈夫よ」
電話口でそう笑う母・文枝さん(仮名)の声に、胸騒ぎを覚えたのはつい最近のことでした。母は84歳。父はすでに他界し、現在は田舎の一軒家でひとり暮らしをしています。
毎月の年金収入は14万円です。決して余裕があるとはいえませんが、「お金の心配はいらないから」と、いつも娘のひろ子さん(仮名/54歳)に対し、気丈に振る舞ってきました。しかし、体の衰えは確実に進んでいます。
つまずく回数が増え、軽く転倒することもあるそうです。「いまも足に何個かアザがあって、いつぶつけたのか、この前気がついたら肘から血がでていてね」母は冗談めかしていいますが、「せめて様子がわかれば」と思ったひろ子さんは、見守りカメラの導入を提案しました。
「ねえ、心配なんだけど……今度の休みそっち行くから、カメラつけさせてくれない? お母さんの様子が、私のスマホでみれるやつ。つけておけば、お母さんにもしなにかあったとき、すぐ駆けつけられるから」
最近では、スマートフォンで室内の様子を確認できる見守りカメラが数多く販売されています。転倒時の異変にすぐ気づけ、離れて暮らしていても安心できる。子どもにとっては、これ以上ない安心材料に思えました。
しかし、母の反応は、想像以上に頑ななものでした。
「そんなもの、絶対に嫌よ! 自分の家なのに、まるで監視されてるみたいじゃない。まだそこまで弱ってない!」
子どもとしては、心配な気持ちがあるだけで、他意はありません。しかし母にとっては、善意の見守りが自分の生活を奪われ、支配されてしまうように感じられたようです。年齢を重ねるほど、これまでどおりにいかない場面が増える一方で、長く続けてきた生活のリズムや自分らしさを大切にしたい気持ちも強くなります。
ひろ子さんは「どうしてわかってくれないんだろう」と思いましたが、話はそれで終わりませんでした――。
見守りを阻んだ「環境」と「コスト」
母の気持ちもわかるものの、高齢の母がいつケガや病気になるかわからず、ひろ子さんも簡単にはあとに引けません。しかし説得を試みるうち、新たな問題が浮かび上がってきました。
「そもそも、うちにはそんな機械を買うお金はないよ」「いや、カメラを買うお金はこっちが出すから……」
そう途中まで口にして、ひろ子さんははっとしました。
調べてみると、見守りカメラには、カメラの本体価格のほかに、毎月利用料がかかります。月額の利用料はおよそ5,500円。しかも、実家にはインターネット回線が引かれておらず、カメラを設置するには、新たにWi-Fiの開通工事が必要になります。
Wi-Fiの開通工事費は約2万2,000円。初期費用だけで3万円超の出費です。そこから毎月固定費が発生するとなると、年金14万円で暮らす母にとって、この負担は決して小さくありません。
「そんなに毎月お金がかかるなら、無理してつけなくていいよ」
そういわれてしまえば、ひろ子さんもそれ以上押し付けることはできません。母の気持ちだけでなく、通信環境や費用の問題も重なり、導入には高いハードルが立ちはだかっていました。
