
「オルタナティブ資産」とは、株式や債券などの「伝統的資産」と異なり、新しく登場した複雑かつ多様な資産形態を指します。ポートフォリオにも入る機会が増えた資産ですが、富裕層はオルタナティブ資産をどのように利用しているのでしょうか。本記事では、濵島成士郎氏の著書『現役プライベートバンカーがこっそり教える億万長者の資産運用』(すばる舎)から一部を抜粋・編集し、富裕層は伝統的資産とオルタナティブ資産をどのような資産と理解しているか、解説します。
富裕層は「伝統的資産で守り、オルタナティブ資産で攻める」
近年、資産運用の世界で頻繁に耳にするようになった「オルタナティブ資産」。富裕層は伝統的資産とオルタナティブ資産をどのように位置づけているのでしょうか。
オルタナティブ資産とは、上場株式や公社債といった伝統的資産とは異なる投資対象全般を指しています。ヘッジファンドやプライベートエクイティ、プライベートデット、暗号資産、コモディティ、インフラ、ワイン、音楽著作権、アートなどが含まれます。リートを含む不動産が入ることもあります。
実は、資産額が多いほどオルタナティブ資産の比率が高くなる傾向があります。直近のグローバルなファミリーオフィスの調査によれば、富裕層の平均的な資産配分は、伝統的資産55:オルタナティブ資産45の配分になっているというデータがあります。多くの方は、想像よりオルタナティブ資産の割合が多いと感じるのではないでしょうか?
だからといって、彼らが伝統的資産を軽視しているわけではありません。ほとんどの富裕層は「ポートフォリオの土台はあくまで株式・債券などの伝統的資産でつくる」と考えています。その理由を考えてみましょう。
第1に、実績と信頼性です。株式や債券には数百年もの歴史があり、そのリスクやリターンの特性について膨大なデータと知見が蓄積されています。多額の資産を運用するうえで、富裕層はこうした過去の実績に裏打ちされた安心感を重視します。株式市場は、長期的には経済成長とともに拡大し、債券は定期的な利息収入をもたらす。――こうした基本を押さえておくことで、大局を外さない運用が可能になるからです。
第2に、流動性の問題があります。伝統的な資産の多くは市場で容易に売買でき、現金化したり、リバランスしたりが比較的簡単に行えます。富裕層と言えども、人生のなかで突然に大きな資金が必要になること(事業における投資機会や資産継承対策など)はあります。また、市場の見とおしの変化に応じて、素早く資産配分を調整したい局面もあります。
その点、上場株式や国債であれば、短期間で売却して現金を手あてできます。未上場株や不動産ではそうはいきません。富裕層が伝統的資産をポートフォリオの基軸に据えるのは、流動性リスクへのカバーとして、いつでも動ける柔軟性を確保するためでもあります。
第3に、シンプルで透明性が高いことがあります。たとえば株式を100株持てば、その企業のオーナーのひとりになれる、という構図は非常にわかりやすいものです。情報開示の制度も充実しています。債券についても、発行体の信用リスクさえ把握できれば満期までのキャッシュフローが読めるのです。
これに対し、オルタナティブ投資では商品のスキームが複雑だったり、情報が限られていたりすることがままあります。富裕層は相応のマネーリテラシーを持っていますが、同時に、自分が理解できない投資には安易に手を出さない慎重さも持ち合わせています。伝統的資産へのこだわりは、「わからないものには投資しない」という投資の鉄則を守っているとも言えるでしょう。
富裕層は、まず伝統的な資産で盤石な基盤を築き、そのうえで余力をオルタナティブ投資に振り向けています。「伝統的資産で守り、オルタナティブ資産で攻める」というのが彼らの基本スタンスであり、主食は株式と債券というわけです。
「オルタナティブ投資=高リスク」の誤解
オルタナティブ投資と聞くと、「よくわからない」とか「なんだかリスクが高そう」と思う人も多いでしょう。しかし、これは単なるイメージです。ここでは、「オルタナティブ=ハイリスク」という一般的な誤解を解いていきます。
確かに、オルタナティブ資産の多くは流動性リスク(=すぐ売れない)や複雑性(=仕組みが難しい)を伴っており、また最低投資額も大きいために、一般の投資家にとってはなかなか手が届きにくいものです。
「富裕層しか参加できない、リスクの高い投資の世界」と思われがちで、実際にひと昔前までは、運用サイドからしても「資産10億円以上の超・富裕層のもの」というイメージでした。しかし近年では、オルタナティブ商品の裾野が一気に広がりました。運用資産1億円前後の富裕層でも、投資を検討できるようになっています。
さらに重要なのは、オルタナティブ投資=ハイリスク・ハイリターンとは限らないという点です。オルタナティブ資産のなかには、株式やハイイールド債券と同程度か、それ以下のリスク・リターン特性を持っているものもあります。
たとえばインフラ投資や不動産ファンドは、長期での安定収益を狙うオルタナティブ資産の代表例です。道路や発電所といったインフラ事業には、景気に左右されにくい需要があり、長期契約による安定的なキャッシュフローが見込めます。後述するプライベートデットも、要は企業への貸付ですから、安定した貸し先であれば比較的長期のキャッシュフローが読みやすい投資と言えます。
こうしたオルタナティブ資産は、伝統的な株式市場の動きや景気動向との相関性が低いため、ポートフォリオ全体のリスク分散に役立ちます。実際、オルタナティブ資産への投資拡大は、低金利環境下で伝統的債券の利回りが物足りない状況が長く続いたなかで、「ほかとは違うリターンの源泉を求めたい」という投資家のニーズに応えて開発されてきた側面があります。
要は、ひと口にオルタナティブ投資と言っても千差万別であり、危なそうなイメージだけで敬遠するのはもったいない、ということです。
富裕層はその中身をきちんと精査し、リスクに見合ったリターンが得られると判断すればポートフォリオに組み入れています。むしろ、伝統的な株式と債券だけでは、リスク分散が十分ではないという認識なのです。
濵島成士郎
シニア・プライベートバンカー
株式会社WealthLead 代表取締役
