⑤ なぜクリスマスローズは、あえて「冬」に咲くの?

多くの植物が春を待つなかで、クリスマスローズは最も条件の厳しい季節に花を咲かせます。それはじつは、きわめて合理的な選択なのです。
理由①|冬の森は「明るい」
原生地の多くは、落葉樹林の林床。春から夏は、木々の葉が茂り、地面にはほとんど光が届きません。ところが冬は、落葉樹は葉を落とし、太陽光が地表まで届いて林床が一気に明るくなります。つまり、落葉樹の森では 「花を咲かせるには、むしろ冬のほうが有利」という逆転現象が起きます。
理由②|ライバルがいない

春になると、多くの草花が一斉に咲き、受粉をしてくれる昆虫の取り合いが始まります。でも冬は、咲いている花がほとんどなく、たとえ昆虫が少なくても、競争相手もまたいないのです。だからこそ、少ないチャンスを確実に掴むという選択が成り立ちます。クリスマスローズは、競うことなく、場を選ぶことで生き残ってきた花なのです。
理由③|「長く咲く」ことで勝つ
冬は受粉の確率が低いというデメリットがありますが、だからこそクリスマスローズは、一発勝負をしません。実際に見えている「花」は萼(ガク)なので傷みにくく、外側を長く保つことで花粉や雌しべ、蜜腺を守り、限られた訪花の機会を逃さない戦略をとっていると考えられます。焦らず、急がず、じっと待つ。時間を味方につける、静かな戦略なのです。
理由④|花を守る構造を冬仕様に進化させた

クリスマスローズは前述した通り、うつむく花姿、厚く丈夫なガク、花の中心を守る形を獲得しました。これは「寒さに耐えるため」だけでなく、雪や霜、冷たい雨、冷風から命をつなぐ生殖器官を確実に守るため。冬に咲くことを前提に、すべてが無駄なく設計されているのです。
クリスマスローズは、場を見極め、自分を進化させ、競わず、急がず、来たるべき瞬間を待つ花。その賢さ、強さも人々を魅了する理由かもしれません。
⑥ 交配育種の歴史は「日本が世界トップクラス」

じつは、現代のクリスマスローズ育種を牽引しているのは、日本。
- 多弁
- フリル
- グラデーション
- ピコティ
- ゴールドリーフ
など、さまざまな品種を生み出しています。なかでも画期的だったのは、本来は蜜を出すだけの「蜜腺」を花弁化させ、多弁という新しい美のジャンルを生み出したことです。これは、自然界ではほとんど定着しなかった形。受粉能力を失う代わりに、人の手による交配や増殖によって命をつなぐ―。クリスマスローズが「自然の植物」から「人と共に進化する植物」へとフェーズを移した象徴的な出来事です。
