◆世界有数の「NingenDock」がAI技術でさらに進化

「当院にも海外赴任の方が一時帰国中に受診されたり、海外籍の方が人間ドックのため来日ということが多々あります。欧米では、健康な人がCTや内視鏡などを受けるには、主治医の厳しい審査か、日本円で数十万円もの出費が必要。対して日本では、誰もが数万円程度で、自分の意志で高度な検査を受けられます。これほど予防医療へのハードルが低い国は他にありませんよ」
特に重要な胃カメラ・大腸カメラについて、日本人医師の技術と診断能力は世界トップ。欧米では見逃されてしまうような微細な病変も、日本の内視鏡医は見つけ出すことができるという。日本の人間ドックは些かサービス過剰な面はあれど、自分の命は自分で守りたいという時に、世界で最も恵まれた環境なのだ。
一方、石岡院長は今後の懸念として「健康格差」拡大を指摘する。医療用コストと情報リテラシーが健康を左右し、人生への投資として主体的に人間ドックを受ける層は健康寿命を延ばし続け、逆に、最低限の自治体検診だけに頼る層は病気リスクに晒され続けるという二極化が進むのだ。また、日本国内に定住する外国人増に伴い、言葉の壁や医療制度の違いが障壁となることも考えられる。
「何も考えずとも、国や会社が健康を守ってくれる……という時代は終わりつつあります。今後は自分の病気リスクを自分で把握し、必要な検査を自分で選ぶという、いわば『医療のパーソナライズ化(個人への最適化)』が寿命と直結する時代になるでしょう」
このパーソナライズ化の鍵が、国内外で社会構造と文化を急速にアップデートしつつあるAI技術だ。
「今後の人間ドックは全員一律のパッケージ型に代わり、AIや遺伝子解析などの技術を駆使したオーダーメイド型が普及するでしょう。私が以前在籍していた『がん研有明病院』のような専門施設でも、膨大な症例データをベースに『がん発症予測AI』の開発が進行中です。この技術が普及すれば、遺伝子データ・生活習慣・過去の検診結果をAIが解析し、『あなたは大腸がんリスクの数値が高いので、毎年カメラを』『このがんは低リスク、検査は5年に1度でOK』などと提案できるようになりますよ」
これまで人間ドックは「今の状態」を確認するだけだったが、AIがシミュレーションするのは「数年後の未来」。科学的根拠に基づいて検査内容を最適化し、「あなたに一番の人間ドックコース」を提示して高精度に病気予防するコンシェルジュAIの登場が期待されるという。
◆重要なのはヘルスリテラシーとコミュニケーション
「何のために受けるのかも考えず、会社や病院から提示されたパッケージをただ受ける思考停止的な受診は終わりにしましょう。一番大切なことは、人間ドックを『受けて安心するだけのイベント』にしてはいけないということです」これからのシビアな時代、健康管理における最大の武器は二つあると、石岡院長は最後に語った。一つ目はお金でも最新医療でもなく、個々人の「ヘルスリテラシー(健康を選ぶ力)』。自分がどんな人生を送りたいかの目標やキャリアプランから逆算し、必要な検査項目を自分で考える力が欠かせないのだ。
そして二つ目は、人間ドックの検査前や結果通知後に、その内容を家族やパートナーと話し合うことである。
「10年後、20年後にどう在りたいか。もし病気が見つかったらどうするか。健康のために何を変えるか。そのような、普段はあまり話さない『家族としての未来像や価値観』をすり合わせるうえで、人間ドックは絶好のチャンスです。人間ドックが人々の健康だけでなく、家族との絆や人生設計を強固にする『きっかけ』になることを、心から願っています」
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そろそろ「2025年度分の人間ドック申込期限」が迫っている。忙しさにかまけて、つい流れ作業で受ける病院を決めてしまうかもしれない。しかし人間ドックの検査結果は、時に今後の人生を大きく左右する。転ばぬ先の杖と肝に銘じて、後悔がないようじっくり考えたいものだ。
<取材・文/デヤブロウ 画像提供/日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw

