売る・貸す・残す――悩んだ末に選んだ「賃貸」
遺品整理を進め、思い出に区切りをつけていく中で、「この家を手放さず、生かしたい」と思うようになりました。
相続した空き家は、3年以内に売却すれば、条件によって3000万円の控除を受けられる制度があります。金銭面だけを考えれば、賃貸に出さず売却が正解だとわかっています。それでも、私は売れませんでした。父の「家があれば安心だ」という言葉が、頭から離れなかったから。
売却査定も受けましたが、金額が良くても買い戻すことができないという「失う感覚」のほうが大きく感じられました。
一方で、空き家のままでは維持費がかかる。だったら、維持費を賄えるように「貸したい」。そう考えるようになりました。
「貸す」と決めてから見えた、実家じまいの形
賃貸に出すと決めてから、やることは一気に増えました。
絨毯をフロアタイルに張り替え、床を補修。壁紙の張り替え、トイレ交換、障子・ふすま、給湯器、雨どい、ハウスクリーニング手入れをしていくうちに築56年の家が、少しずつ息を吹き返していくのを感じました。
お金をかけすぎず家を元気にしたい。
管理会社の不動産屋さんに手伝ってもらい 床の張り替えは自分で行い、節約できるところは自分でDIYに挑戦しました。
売る、貸す、残す。どの選択にも、メリットとデメリットがあります。
私の場合、金銭面だけを見れば、売却が最適だったかもしれません。それでも売れなかったのは、家を手放すことへ気持ちがついていかなかったからです。
親が大切にしてきた家に「ありがとう」と言う時間が、もう少し欲しかった。
相続空き家の3000万円控除が受けられるのは相続後3年。その間に決断できるとは思えず、私は賃貸に出すために勉強を始めました。相続、遺品整理、リフォーム、掃除、賃貸に出すまで――ここで、いろいろな知識が身につきました。
不思議なことに「貸す」と決めてからゆっくり 「家じまいをしよう」という気持ちが生まれました。
売却を急がなくてもいい。 誰かに使ってもらいながら、心の整理をすればいい。以前のように空き家で年間20万以上かかることもなく維持できていることで、家がまだ自分の手元にあるという安心感を持てました。
入居が決まったとき、借りてくださったのは、私と同じ世代の方でした。
「昭和のレトロ感がよかった」そう言って、この家を選んでくださいました。築56年の家のよさを、懐かしさとして受け取ってくれる人がいる。
賃貸に出してよかったと思いました。

