暗記器・記憶器の遷移
ネモニック暗記器のような「暗記・記憶するための道具」は実はいろいろな種類があり、時代も大正時代から確認できている。「暗記器の歴史」というほどの内容はないが、調べて見つけた主な「暗記器・記憶器」を紹介しよう。なお、名称は定まっておらずメーカー毎に「暗記器」「記憶器」「暗誦器」といった名前が付けられている。
■英語通信学校 暗記器
暗記器の類で見つけた中で、最も古いものは、大正5年の「英語通信学校 暗記器」だ。これは、英語通信学校へ入学するともらえる特典だったようだ。資料を見ていると、大正5年からこの暗記器をプレゼントするという広告が多数掲載されており、昭和に中学〇年生等の教育雑誌の定期購読申込みに万年筆などのおまけがつけられていたが、教育+おまけの勧誘は、大正時代からあったのだ。
英語通信学校については詳細が不明だが、場所は「本郷大学正門前」とあるので東大の赤門の近くにあった語学の学校であろう。
*英語通信学校の広告。出典:『実業の世界』13(9),実業之世界社,1916-05-01. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/10292942 (参照 2025-09-23)
この「英語通信学校 暗記器」を偶然持っていた。ブリキのケースで、左右の窓が上下に開閉するシンプルな形だ。左のレバーを動かすと、窓の目隠しが左右入れ違いで上下する。右のつまみを回すと、中に巻き込んである紙が回転して、次の単語が出てくる仕組みだ。余談だが、この英語通信学校の暗記器はコレクションの中に2つあった。どういうモノだかよくわからずに入手していて2つあったのだから、高い出現率である。おそらく当時は相当数配布された人気アイテムであったのだろう。




■カード式英語暗記器 エヂソンネモニック
昭和初期になるとネモニック暗記器が登場する。少年倶楽部などに広告が掲載されるようになり、それとともに「英語通信学校 暗記器」は徐々に存在感を失っていったようだ。
ネモニック暗記器の特許は大正11年に登録されているので、そこから大々的に売り出すまで数年のブランクがある。なお、ネモニック暗記器のメーカーは「ネモニック社」で日本の会社だが、創業者であり「ネモニック暗記器」の発明者である志賀政男は、もともとタイプライターの修理をしており、そこから上海でタイピストの学校を始め、語学も教えていたとのことなので、このネモニック暗記器が必要とされる環境であったといえよう。
その後昭和10年代まではネモニックの広告を確認できるが、次第に消えていったようだ。

*ネモニック暗記器の予備カード。このパッケージの写真はエジソンだろうか。
■その他の暗記器・記憶器・暗誦器
その後、昭和33年に特徴的な暗記器「オートメモ」が登場する。オートメモの前にそれ以外の暗記器、記憶器を紹介しよう。その他としては大きく分けると2タイプの暗記器が存在していた。一つは「英語通信学校 暗記器」や「ネモニック暗記器」のように、どこかしら動く作りになっており、それによって暗記対象の単語などを隠したりするタイプのもの。もう一つは、カードケースタイプで、それ自体は特にどこも動かない。どちらも暗記器、記憶器という名称で、同じ「器」という字を使っているが、動く器械とカードを入れる器といった違いを感じる。
ここでは、カードケースではないほうの暗記器、記憶器で、私が所有しているものをいくつか紹介しよう。

*左:「メモテスト」東光社、昭和30年頃。右:不明。

*「ワードホルダー」。メーカーは不明だが「ニコライ学園教材部」の表記有。戦前。
*左:「ワードフレンド」、花菱。昭和30年頃?。右:「ワードケース」、サンスター文具。昭和40年代頃?
■旺文社「オートメモ」
この「暗記器・記憶器」の類で、最も面白いのは、旺文社の「オートメモ」だと思う。片手で握るような動きをするだけで、中にセットしたカードが切り替わっていく。カードの紙の厚みを利用している仕組みなので、カードがスライドせず詰まってしまうなどうまく動かないこともあるが、動きが面白く初めて見たときには驚いた。
中のカードは下の部分に送られるが、順次上に戻る仕組みの「回転式」だ。暗記をするための道具としては複雑なつくりの方で、大変よくできている。




*上部を押下することで、中のカードが下に移動し、回答部分が表示されるようになる。
*本体の後ろの丸い穴は、カードが詰まった時の調整用。
https://youtube.com/shorts/z-cWsFPWgGA
*オートメモ用のカードは、印字されたカードと自分で書き込める白カードがある。
オートメモは1958年に「書籍型単語記憶器」という名称で実用新案登録されている。同時期に旺文社の雑誌「中学時代」で広告が始まり、1980年頃までオートメモの広告を確認することができるので、この手の道具としては、かなりのロングセラーだったのではないだろうか。
消えていった理由はわからないが、結局リングのついたただのカードが使いやすいということに落ち着いたのではないかと思われる。オートメモだけでなく、「暗記器・記憶器・暗誦器」といったたぐいの道具はこのころ、あるいはもっと前に姿を消していると思われる。
なお、旺文社は、オートメモの前に、他メーカーも出していたような中の紙を手動で回して切り替えるタイプも作っていた。「オートメモライザー」という商品だ。これ自体は特別な特徴はないが、オートメモの前身の記録として紹介しておこう。
*「オートメモライザー」
箱型記憶器や単語カードは次回で
暗記器・記憶器・暗誦器の紹介をしてきたが、今回は記憶するための外側の道具というか、多少ギミックのあるものの紹介をした。単語カードといえば、リング付きの白カードだし、それ以外にも特にギミックのない記憶器・暗記器などもある。その辺はまとめて次回に紹介したい。

