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もっと早く「NO」と言えていれば…元ルイ・ヴィトン トップ販売員の後悔。長年のお得意様を「失う覚悟」を決めた、たった一つの理由

もっと早く「NO」と言えていれば…元ルイ・ヴィトン トップ販売員の後悔。長年のお得意様を「失う覚悟」を決めた、たった一つの理由

無理な要求を繰り返す顧客、度が過ぎた発言をするお得意様……。多くの販売員が、日々の接客で「お客様との距離感」に悩んでいます。元ルイ・ヴィトン トップ販売員である土井美和氏も、かつて同じ問題に直面し、ある“大きな決断”を下した経験があるといいます。『「自分」というブランドを売る 元ルイ・ヴィトン トップ販売員が大切にしてきたこと』(大和出版)より、実体験をもとに「顧客との適切な距離感」を維持するコツを紹介します。

育てたようにお客様は育つ

あなたの大切な人、長い付き合いの友人を思い浮かべてみてください。きっとその人には、どこか尊敬できる部分があるのではないでしょうか? リスペクトを感じ合えるからこそ、よい関係を長く続けられるのだと思います。

こうしたリスペクトは、お客様との関係にも通じるものがあります。かつては「お客様は神様」という言葉の元、「お客様の言うことは絶対」という風潮がありましたが、無理な要求や過剰なサービスに対応することは、その場はよくてもいずれ無理が生まれてしまいます。お客様に直接対応するスタッフの心の負担にも繋がり、その関係は長くは続かないと思うのです。

その対応が、お客様の「当たり前」をつくる

私の実家には長年、相田みつをさんのカレンダーが飾られていました。心にスッと入るたくさんの言葉がある中でも、印象に残っているものに「育てたように子は育つ」があります。

まさに「育てたようにお客様も育つ」のだと思うのです。少々理不尽でも「お客様は神様」と全てに応じ続けていると、それが当たり前になり、要求がエスカレートしていきます。

誠意ある対応は大前提ですが、「できること」と「できないこと」を明確に伝えるのも、健全な関係には必要です。それがお互いリスペクトを持って、長くお付き合いしていくことに繋がるからです。

“長年のお得意様”を失った経緯

何年も通ってくださっていた、あるお客様の話です。私が担当するお客様ではありませんが、長年同じお店に来てくださり、頻度も高くご来店されていたので、担当者だけではなく色々なスタッフがご挨拶をしたり、お話をしたり、対応していました。お客様もまた、スタッフの顔や名前をよく覚えてくださっていました。

冗談っぽい感じもありましたが、「〇〇はこういうところがよくない」とか「〇〇はもっとこうしないと」「〇〇は頭が悪いから」と、一緒に働くスタッフの悪い部分をおっしゃることも多く、私はこちらに至らない部分があったのだからお話を聞かなければと、「そうですよね。そのようなお気持ちにもなりますよね。行き届いておらず、申し訳ありません」と答えていました。

気づけば、毎回お会いするたびにそのようなお話をするのが、いつものスタイルになっていました

私が異動してからも、異動先の店舗にご来店され、以前の店舗での体験やスタッフの悪い話を聞くことが何度か続きました。お客様に悪気があったわけではないと思いますし、ちょっとした雑談ネタくらいに思っていたのだと思います。

ただ私は、それを聞き続けることが大きな精神的苦痛になっていました

一緒に働いてきた仲間を業務とは関係なく、人として否定されているかのような言葉を聞きながらも、「ご購入くださっているから」「お客様だから」という理由で言い返せない自分に、釈然としない気持ちが残っていました。

そのような接客が続いたある日、自分の中でもう限界だ、と思いました。2時間ほどの接客を終えて、マネージャーに話しに行きました。これからお客様に電話をして、これまでの自分の気持ちをお伝えしたい。今後もスタッフに対して否定的な言葉をお話されるのであれば、私はこれ以上〇〇様の対応はできませんと伝えたい、と。

今思えば、お客様にとんでもないことを言おうとしているとも思います。でも、その時のマネージャーは「もしもお客様がお怒りになって電話を代われとおっしゃることがあれば、私が対応するから言ってね」と言ってくれました。

あの時、私の意見を尊重して背中を押してくれたマネージャーがいたことは、本当に幸せだったと今でも感じています。

震える声で自分の思いをお伝えすると、お客様は電話の向こう側でとても驚いていましたが、「そんな苦しい思いをさせていたなんて気づかなかった、ごめんね」と、理解してくださいました。

しかし、その後再びお会いすることはありませんでした。

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