◆③無添加っぽい何も入っていない歯磨き粉

しかし、歯磨き粉に含まれる有効成分(薬効成分)は、むし歯・歯周病・口臭に対して効果があると科学的に立証されている成分です。また、正しい使用方法を守れば、人体に害がないことも確認されています。
過去にむし歯の経験がある方や、むし歯リスクが高い方がフッ素入り歯磨き粉を避けていると、むし歯治療を繰り返す負のループから抜け出せないケースも少なくありません。
同様に、歯周病が進行している方が殺菌成分の入っていない歯磨き粉を使用していると、歯周病特有の口臭が強くなることもあります。
フッ素は、むし歯菌によって歯が溶け始めた際に、歯の表面を修復する「再石灰化」を促す重要な役割を担っています。むし歯予防において、フッ素の使用は非常に重要だと考えてください。
特に大人のむし歯予防においては、フッ素濃度がカギになります。現在、国内で販売できる最大濃度は1450ppmです。無添加にこだわるあまり、この最強の武器を捨てるのはもったいない選択です。
実際に、無添加歯磨き粉に切り替えた数年後、むし歯の本数が一気に増えて来院される方もいます。また、茶渋やコーヒーなどの着色(ステイン)が落ちづらく、歯の黄ばみが蓄積されるリスクがあります。
ただし、無添加=悪ではありません。歯磨き粉の使用感が苦手な方や、特定の成分にアレルギーがある方にとっては、無添加歯磨き粉が適している場合もあります。歯磨き粉には、歯ブラシによる摩擦を和らげる潤滑剤の役割もあるため、無添加だから「意味がない」というわけではありません。
無添加歯磨き粉を使用する場合は、フッ素入り洗口剤や殺菌成分を含む洗口剤での仕上げうがいを併用するのがおすすめです。
◆「歯医者が買わない」=悪ではない

本当に優しいオーラルケアは、「使っている気分」ではなく、数年後の口元の状態に表れます。
オーラルケアを続けることで、数年後、どんな口元でいたいのか。
そのために、どんな疾患を予防したいのか。
その目的に合ったツールを選べているか。
予防のためのオーラルケアは、理想の口元を思い描き、適切なツールを選択することから始まります。
もし迷ったときは、現在ご自宅で使っている歯ブラシや歯磨き粉を、そのまま歯科医院に持ってきてください。「これ、僕の口に合っていますか?」その一言で、プロがあなたのお口の状態と道具の相性を診断します。
歯科医院は、病気を治す場所であると同時に、悪くならないために通う場所でもあります。今日使っている歯ブラシを、なぜ選びましたか。その理由を自分の言葉で説明できる——それが、予防の第一歩です。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari

