
「老後は持ち家があれば安心」日本人の多くがそう考え、マイホームにお金をかけます。実際、総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、高齢夫婦世帯の持ち家率は約93%と非常に高い水準にあります。しかし、この「持ち家偏重」の資産構成は、老後生活におけるリスク要因になることも。実例をみていきましょう。
エリートサラリーマンの「積年の夢」
ユタカさん(仮名/72歳)は、新卒で入社した第一希望の企業に長年勤め上げ、60歳で定年退職。現在は年金生活を送っています。
現役時代は営業マンだったため、出張や単身赴任も多く、2歳年下の妻・ヨウコさんと一人息子を都内に残し、各地を飛び回る日々でした。単身赴任にかかる費用はほぼ会社負担。さらに息子が高校生になるまで妻と息子は社宅に住んでおり、住居費も抑えられていたため、50代半ばには貯金が約6,500万円ありました。
しかし、ユタカさんは長年抱えている思いがありました。
「広いマイホームが欲しい」
愛妻家のユタカさん。ヨウコさんとは共通の趣味のワインを通じて知り合い、結婚してからもたびたび2人でグラスを傾けていました。しかし、ユタカさんの仕事が忙しくなったことや子育てにより、次第に2人の時間が持てなくなっていきます。息子は大学進学と同時に家を出て、20代で結婚。現在は住まいから車で1時間ほど離れたマンションで家族とともに暮らしています。
「長年苦労をかけてすまなかった。ヨウコ、家を買おう」
55歳で本社勤務となったことから、ユタカさんは妻と2人、マイホームを建てることに。
「リビングには大きなワインセラーが欲しい。ちょっとした晩酌をするために、バルコニーも広くしよう。庭も広くして家庭菜園をしようか。将来的には足腰が不安だし、平屋にしたほうがいいね」
夢が広がる2人。退職金は2,100万円です。
「郊外なら少し背伸びしてもいいかな」
そしてユタカさんは55歳で、土地建物合わせて総額6,500万円、75坪の理想の戸建てを手に入れたのです。大きなワインセラーに広いバルコニー、お庭……2人の夢が叶った理想の家に、うれしさを隠しきれません。息子一家もたびたび顔をみせてくれて、「いい家にしたね」と褒められ、ユタカさんも誇らしげでした。
借金はしたくない…終の棲家の資金計画
購入にあたり、55歳で借金を背負うことが不安だったため、住宅ローンは組まず、手持ちの6,500万円を現金一括で支払いました。一瞬にして老後資金が底をつきましたが、ユタカさんに不安はありませんでした。
「定年まであと5年働けるし、なにより2,100万円の退職金が入る。なんとかなるだろう」
しかし、ここからの5年間が誤算でした。55歳を過ぎて本社勤務となり年収がダウン。一方で、手に入れた75坪の平屋は、毎年数十万円の固定資産税と都市計画税がかかります。さらに、こだわりの平屋やワインセラーの空調管理にかかる光熱費は、以前とは桁違いでした。
結局、思ったように貯蓄を回復できないまま60歳の定年を迎えます。予定どおり2,100万円の退職金を受け取りましたが、これだけが、夫婦に残された唯一の頼れる現金となってしまいました。
